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Excel VBA「RPAです」「よし、通れ!」に潜む危うさ

こんにちは、毛糸です。

先日こんなツイートを見かけました。

このツイートをパク……いえ、インスパイアされて、こんな呟きをしました。

本記事ではこのツイートの内容を深掘りし、VBAをRPAと間違えて通してしまうような状況がどうして起こるのか、その問題はどこにあるのかについて考えてみます。

RPAというバズワード

RPAとは、次世代の新しい労働力と期待される自動化システム(ロボティック・プロセス・オートメーション)のことです。

いまビジネス界ではAIと並ぶ技術として多くの企業が注目し、実際に業務に適用されています。

RPAに関しては、以前開催された勉強会PyCPAでも取り上げられ、大変反響がありました。

RPAは一種のバズワードとして、ビジネスマンなら知らないでは済まされない言葉になりつつあり、企業の「偉い人」たちの中でも、業務に組み込めないものかと画策する人は少なくありません。

冒頭のツイートは、そんなRPAブームを風刺するものです。

VBAではなくRPA、その心は

RPAは業務アプリケーションをまたぐようなプロセスの自動化を可能にするソフトウェアです。

業務自動化という点に着目すれば、すでに「広く普及したツール」により、ある程度のことは可能になっています。

それがExcelマクロであり、その記述プログラミング言語であるVBAです。

Excel VBAはエクセルの操作の自動化や、他のOfficeソフトやインターネットエクスプローラーとの連携により、様々な処理を自動化可能です。

実際、大企業ではExcel VBAによる大規模なツールを開発・導入し、業務効率化を行っている例が数多くあります。

しかし、RPA全盛期の今、「それExcel VBAでもできますよ」というフレーズは、「偉い人」たちの心には刺さりません。

「RPAじゃないの?それじゃあだめだよ、RPAを使わなくちゃ」

と一蹴され、RPAではなくExcel VBAでプログラム組みましょうとはなりづらい現状があります。

このような現象はひとえに「RPAを使いたい」ということが目的化していることが原因です。

RPAは本来、従来の方法では自動化できなかったアプリケーション間の連携などを柔軟につなぎ合わせることが可能な技術として、業務改善に用いられるべきものです。

しかし空前の「RPAブーム」によって、「RPAを使うこと」それ自体が目的化し、そのために課題を探すという逆転現象が起こっているのです。

配られたカードと、課題と解決の一致

もちろん、RPAという新しい技術が世に広く知られたことで、見えてきた課題もあるでしょう。

スヌーピーでおなじみの漫画ピーナッツにもこんな名言があります。

配られたトランプで勝負するっきゃないのさ……(YOU PLAY WITH THE CARDS YOU’RE DEALT…)

RPAというカードが配られたからには、そのカードを使って勝ちを挙げたい、と考える人は多いでしょう。

しかし他者もやっているからうちも、とか、Excel VBAでできるような比較的簡単な自動処理もRPAでやりたい、とかいう話になってくると、手段と目的が入れ替わっていると言わざるを得ません。

ベストセラーになった『起業の科学』には、事業の成功の条件の1つに、問題と解決策が一致していること(プロブレム・ソリューション・フィット)を挙げています。

起業という文脈を抜きにしても、課題とその解決策が一致していなければその取組みから成果を上げることは難しく、したがって「解決策(RPA)」ありきで課題を見つけるようなやり方が、常にうまくいくとは限りません。

ましてや冒頭のように、Excel VBAを「RPAです」と言って「よしよし」と納得してしまうのは、RPAという技術がなんたるかを知らないばかりか、自分の課題すらも見失っているのではないかと心配になる状況です。

残念ながら、こんな笑い話のような状況が、たまに見聞きされるのです。

まとめ

RPAの革を被ったVBAが、「偉い人」の機嫌をとる風刺は、課題より解決策が先に来て目的化する危うさを含んでいます。
バズワードに惑わされることなく、いま自分たちが直面している課題はなにか、本当に必要な解決策はどういうものかということを、きちんと考える必要があるように思います。

公認会計士が経理業務で発揮できる価値がある!

こんにちは、毛糸です。

私は普段、「決算支援コンサルタント」として、上場企業の経理支援を仕事にしています。

決算支援業務においては、公認会計士の資格がある種の「売り」となっており、お客さんも私の資格と経験に安心感をもってもらえているようです。

本記事では公認会計士が経理業務において発揮できる価値について考えてみたいと思います。

目の前のお客さんに喜ばれる仕事

公認会計士の業務として最も重要なのが「監査」です。

監査とは、企業が作成する財務諸表を、企業と利害関係のない専門家が外部からチェックし、その適切性を保証することです。

日本では公認会計士試験に合格する人の殆どが、監査法人に就職し、監査実務を経験します。

監査では、企業が自ら作成する財務諸表という「成績表」に嘘偽りがないかを詳細に検討します。

監査という制度がなければ企業は自分の思う通りに成績表を開示し、実態以上に自社を良く見せようとするインセンティブが働くため、これを未然に防止すべく監査法人の会計士たちは目を光らせています。

したがって、監査という業務においては「懐疑心」を保持することが重要とされており、そのためにしばしば企業と対立が起きます。

人によってはこの対立構造にストレスを感じ「目の前のお客さんに喜んでもらえない」という感想を抱く会計士もいます(監査法人のお客さんは企業であり、そして投資家でもありますが、投資家の喜ぶところを見られるのは更に稀です)。

一方で、私が携わる経理支援の業務においては、基本的に会社と同じ方向を向いて、ともに決算業務を乗り越えようという考えのもと働きますので、まさしく「目の前のお客さんに喜んで貰える仕事」です。

監査も決算支援も、究極的には資本市場を良くしようという目的意識があるわけですが、その立ち位置によって、お客さんとの関係性が180度変わるのは面白いですね。

公認「会計」士の専門性

公認会計士は、会計や監査に関する国家試験を突破したもののみに与えられる独占的資格です。

会計士、という名称からもわかるとおり、資格を勝ち取るには膨大な範囲の会計に関する知識をインプットし、高いレベルで理解して、それをアウトプットできる能力が求められます。

会計に関する卓越した知識を有するからこそ、監査という社会的に意義ある制度の担い手として信任されているのであり、公認会計士は会計に関する理解という面において右に出る者はいません。

いうまでもなく、経理や決算という業務においては、会計の理解が欠かせません。

決算を迅速に・正確に遂行するためには、高いレベルでの会計知識が必須であり、それは単純な会計基準や経理手続きの暗記ではなく、「なぜそういう会計規則になっているのか」という背景まで理解していることが重要です。

公認会計士は資格取得から監査実務に至るまで、そういう本質的な理解を重視しているため、経理業務の担い手としてこれ以上ない人材であり、決算支援において大きな価値を提供することが可能です。

ときおり「会計士は出来上がった数字にケチを付けるだけで、仕訳1つ切れない」という批判を耳にすることがありますが、同意できない主張です。

もちろん監査として企業に向き合う際に種々の制約から経理担当者の理解に及ばない点がないではないですが、会計士試験という難関試験を突破してきた知識と監査の経験は、経理業務においても大いに発揮されるものです。

重要性は会計士と経理の壁になるか

監査では「重要性」という概念を多用します。

重要性とは、財務諸表の利用者にとって些細なことは、かならずしも負担を強いて修正すべきものではない、という「実務的な」考え方です。

この重要性の考え方は、会計士の価値観に刷り込まれているといっても過言ではなく、しばしばこの考え方が経理業務の邪魔をするという主張を目にします。

経理業務においては、1円単位まで金額を合わせに行くだとか、金額の変動要因を詳細に調べ上げるといった仕事が必要になるケースもあります。

会社によっては、それが重大なミスや不正を発見する手続きとして機能している場合もあり、そういう場合に会計士的な「重要性」を持ち出すと、話がこじれてしまいます。

ただ、重要性に関するスタンスの違いは、会社の文化や価値観や規模にも依存しており、会計士同様に重要性を経理プロセスに組み込むケースもあります。

したがって、会計士に刷り込まれた「重要性」の考え方が常に問題となるわけではなく、会社との関係性に合わせて適切に考え方を補正していけば、問題にならない場合も多いのです。

「監査ではこう考えるから、経理でもこうすべき!」といった頑なな決めつけをすることなく、会社の文化や目的にあった方法を模索する姿勢を保てるかどうかが重要です。

まとめ

本記事では公認会計士と監査について触れながら、公認会計士が決算の担い手として価値を提供することが十分可能であるということについて説明しました。

私は決算支援コンサルタントとしての働き方に誇りを持っており、監査とは別の側面から、社会に貢献することにやりがいを感じています。

もし会計士として、お客さんと同じ方向を向いて仕事がしたいという希望のある方は、現在コンサルタントを募集しておりますので、SNSでご連絡ください。

投資とギャンブルの違いとはなにか?経済学にも触れながら。

こんにちは、毛糸です。

先日、金融庁が「老後までに2,000万円の貯蓄が必要」とする報告書を公表し、多くの日本人が投資の重要性に気づき始めています。
しかし一部の人は、投資をギャンブルと同等に捉え、あまり近づきたくないと感じているようです。
たしかに、投資もギャンブルも、お金を投じることにより、将来お金が増えて返ってくることを期待し、しかしその金額がいくらになるかはわからない(不確実性がある)という意味では同じ性質を持っています。
しかし一般的には、投資とギャンブルは「常識的に」別物だと考える人が多いのではないでしょうか。
本記事では、投資とギャンブルの境界線となる以下の点に注目し、経済学の観点から説明してみようと思います。
  • 消費的価値の存在
    • 投資は(定義上)満足を生まない一方、ギャンブルは満足感を生む
  • 期待リターンの正負
    • 投資は期待リターンがプラスであるが、ギャンブルは多くの場合マイナス

お金の使い方には2種類:消費か投資か

投資とギャンブルの違いを考える前に、そもそも投資とは何かについて説明しなければなりません。
経済学では、お金の使い方(支出)を大きく2つに分けます。
ひとつが消費(consumption)、もうひとつが投資(investment)です。
投資には、貯蓄(saving)を含みます。
消費とは、お金を使って、満足感を高めることです。
投資とは、お金を使って、将来のお金を得ることです。
経済学では消費と投資を明確に区別しており、投資からは直接満足感を得ることはなく、投資することで将来得られるお金を使い、将来消費を行うことで満足感を得ると考えます。
消費のためにお金を使ったときに得られるモノを、財といいます。たとえば、休憩時間にお金を支払って買ったコーヒーは、満足感を高めてくれる財です。
財は基本的に、自分の財産を増やしてくれるものではなく、購入して消費して満足感を高めて、おしまいです(長期間に渡り満足感を高めてくれる財:耐久消費財もあります)。
他方、投資のためにお金を使ったときに得られるモノを、資産といいます。たとえば、銀行にお金を預ける(=支払う)ことで、将来それに利息をつけて返してくれる預金・貯金は、資産です。
株式も、資産です。なぜなら株式とは、企業にお金を託しビジネスに活用してもらうことで、そこで得られた利益を配当として還元してくれるための証明書であり、将来のお金を得る手段だからです。。
投資とは、資産を買うことで、将来お金を増やすことを目的に行われる活動を言います。

投資には2種類:無リスク投資(安全資産)とリスク投資(危険資産)

将来お金を増やして返してもらう目的で、お金を支払う行為が投資であり、投資の「あかし」が資産です。
投資(資産)には2つの種類があります。
ひとつは、現時点で将来いくらお金が返ってくるかわかっているもの。これを無リスク投資(安全資産)といいます。
もうひとつは、現時点で将来いくらお金が返ってくるかわからないもの。これをリスク投資(危険資産)といいます。
無リスク投資はたとえば、絶対に破綻しない国に対してお金を貸した際にもらえる証明書(国債)がイメージしやすいでしょう。
リスク投資は、株式や投資信託など、いわゆる金融商品のほとんどが該当します。
リスク投資をする際に重要なポイントが、リターンとリスクです。
リターンとは、その資産にお金を投じたとき、将来どれくらい増えるかの度合いのことです。
リスクとは、リターンが想定する金額からどれくらいブレる可能性があるかの尺度です。
通常、リターンは大きいほうが(つまりたくさん増えたほうが)好ましく、また、リスクは小さいほうが(つまり想定からあまりブレないほうが)好ましいとされます。
リターンの想定のことを、期待リターンといいます(期待とは、確率論における期待値を意味しています)。
資産の期待リターンは通常プラスです。なぜなら、増える見込みのないものにお金を出すなんてことは、合理的な人であればするはずがなく、誰も興味を持たない資産が世に出回ることはないと考えられるからです。

投資とギャンブルの違い

消費と投資、無リスク投資とリスク投資の違いがわかったところで、本題です。
投資とギャンブルの違いは何なのでしょうか。

ギャンブルの消費的側面

第一に、ギャンブルには消費的側面と投資的側面があります。
どういうことかというと、ギャンブルという行為は、それ自体が満足感を得られる活動(消費)であり、かつお金を投じることで将来増えることを目論んでいる(投資)のだということです。
通常、投資は満足を生みませんが、ギャンブルは消費の対象になり、満足感を得られます。
したがって、「ギャンブルは投資に含まれる」のではなく、「ギャンブルは消費と投資の両方の性質を持つ」と考えられます。

期待リターン

第二に、ギャンブルとしてイメージされる活動の多くは、期待リターンがマイナスであるということです。
投資は通常、期待リターンはプラスです。マイナスならば誰にも欲しがられることはなく、市場から消えてしまうからです。
しかし、多くのギャンブルは期待リターンがマイナスです。たとえば宝くじの期待リターンは-54.3%ほど(当選金率45.7 %、参考URLリンク)であり、100万円買っても期待値の上では45.7万円(54.3万円の期待損失)にしかなりません。
投資は基本的にプラスリターンであると考えられている一方、ギャンブルはマイナスであるというのは、投資とギャンブルの大きな違いの一つです。
しかし、ギャンブルには前述の通り消費性(満足感を高める性質)がありますから、期待リターンがマイナスでも、欲しがる人はいなくならないのです。

まとめ

消費と投資、無リスク投資とリスク投資という経済学の考え方に触れながら、投資とギャンブルの以下の違いについて述べました。
  • 消費的価値の存在
    • 投資は(定義上)満足を生まない一方、ギャンブルは満足感を生む
  • 期待リターンの正負
    • 投資は期待リターンがプラスであるが、ギャンブルは多くの場合マイナス
投資とギャンブルには明確な違いがあり、統語の資産形成には投資が役立つことは言うまでもありません。
投資をギャンブルと混同せず、正しく理解して、資産形成を行っていきたいですね。
本記事の参考文献として以下を挙げます。投資初心者がまず何に投資すべきか、証券会社にどうやって口座を開けば良いのか、NISAやiDeCoなどの制度をどう利用したら良いのかという具体的な話に加え、本記事で述べたギャンブルの消費性についても触れられています。
タイトルに若干の胡散臭さを感じますが、金融理論に即した投資の基本が学べます。

「投資シミュレーションプログラム」サマリー(随時追加)

こんにちは、毛糸です。

本記事は「投資シミュレーションプログラム」に関する記事のまとめページです。

「投資シミュレーションプログラム」とそれを使った各種の分析について、このページから各記事に飛ぶことが出来ます。

投資シミュレーションプログラム

投資シミュレーションプログラムVer.1.0

投資シミュレーションプログラムVer.1.0のコード例と、投資シミュレーションプログラムが用いている「モンテカルロ・シミュレーション」に関する説明は下記ページです。
>>投資シミュレーションプログラムを作ってみた【Rでプログラミング】

投資シミュレーションプログラムVer.1.1

投資シミュレーションプログラムは何千何万という膨大な数のシナリオをコンピュータの圧倒的計算力で処理するプログラムですが、Ver.1.0ではサンプルの計算をfor文を用いて行っていました。

統計プログラミング言語Rはfor文による繰り返し計算よりベクトル演算の方が高速に処理することができ、これを実装したのがVer.1.1です。
>>投資シミュレーションプログラムを高速化してみた

活用例

年金の分析

投資シミュレーションプログラムを用いて、年金積立金のポートフォリオの将来予測を行っています。積立金の100年後の状況を予測したり、1年後に損失が生じる確率が35%あることなどが明らかになりました。
今後、運用期間中に資金が出入りするような、より現実的な仮定のもとで分析を行う予定です。

FX・外貨預金の分析

FXの期待リターンの理論値を計算したうえで、それをパラメタとして投資シミュレーションプログラムを使い、FXで億り人になれる確率や破産する確率を計算しました。

レバレッジが億り人になれるキーであることが明らかになりましたが、破産確率の上昇と隣合わせであることもわかりました。
>>FXの期待リターン、億り人になれる確率、破産する確率【モンテカルロ・シミュレーション】

インデックス投資の分析

資産運用の王道、インデックス投資について、投資シミュレーションプログラムを用いた将来予測を行う予定です。

投資シミュレーションプログラムを支える技術

投資シミュレーションプログラムは、3つの技術と知識によって支えられています。
  1. 確率論・統計学
  2. ファイナンス理論(金融工学)
  3. プログラミング言語
投資シミュレーションプログラムは、確率論における「大数の法則」によって正当性が保証される「モンテカルロ・シミュレーション(モンテカルロ法)」により、将来の予測値を計算しています。
分析の対象は投資であり、金融商品です。金融商品の性質や運用戦略の策定については、ファイナンス(金融工学)の分野において知見が蓄積されています。
投資シミュレーションプログラムにおける実際の計算はコンピュータが行いますので、必然的にプログラミングのスキルが必要になります。投資シミュレーションプログラムは統計プログラミングRを用いて作成されています。
ファイナンスにおけるモンテカルロ法の活用については、下記の書籍が大変役に立ちます。

統計プログラミング言語Rによるファイナンス分析に関しては、下記書籍を読めば、Rの基本的な使いかたから、本格的な分析までを学ぶことが出来ます。

 

FXの期待リターン、億り人になれる確率、破産する確率【モンテカルロ・シミュレーション】

こんにちは、毛糸です。

資産運用にはいろいろな手段があり、なかでも外貨預金やFX(外国為替証拠金取引)は有名どころです。

しかし、外貨預金やFX(以下FX等といいます)は、文献によっては「手を出すべきでない」投資商品として紹介されていたりもします。

たとえば『図解・最新 難しいことはわかりませんが、お金の増やし方を教えてください!』には、以下のように説明されています。

『為替が上がるか、下がるか』と、『金利が高いか、安いか』をセットで考えて、取引価格が決まっているから、買う前にどっちの通貨がお得かは言えない

外貨預金をやるのはコイントスで『表』か『裏』にお金をかけるのとほぼ一緒

 

本記事ではこの主張について詳しく掘り下げ、FX等の期待リターンについて考察したあと、それに基づく「億り人になれる確率」と「破産する確率」を投資シミュレーションプログラムを用いて計算してみます。

外貨預金・FXはなぜ魅力的なのか

FX等は、2つの収益機会にあずかれます。

ひとつは海外通貨に対して適用される高い金利収入(インカムゲイン)、もうひとつは通貨高による価値の増加(キャピタルゲイン)です。

外貨預金は通常、高金利通貨建てで設定され、高い金利収入(インカムゲイン)が得られるとされています。

またキャピタルゲインに関しても、例えば米ドル建て外貨預金をするとして、1ドル100円のときに1万ドルを預金し、引き出し時に1ドル110円になっていれば、円建てでは100万円から110万円に増えることになります。

FXも同様に、為替の変動による利益を得つつ、スワップポイントと呼ばれる金利収入が得られます。

このように、インカムゲインとキャピタルゲインが同時に得られるという魅力があるため、FX等は人気の投資となっています。

FXリターン分析の前提①:裁定取引とフォワード・パリティ

FX等の期待リターンについて考察する前に、いくつかテクニカルな前提をおきます。

今後、通貨高が見込めるような通貨があったとしましょう。つまり、キャピタルゲインが見込めそうな通貨です。

為替の世界には、将来の為替レートを現時点で「約束」する契約が存在します(通貨先物や為替予約といいます)。

もし将来、通貨高になりそうな通貨に対して、将来低いレートで買う「約束」をすることができれば、その取引を行う投資家は、将来安いレートで通貨を買い、高い市場レートで売却することで利益が得られそうです。

このような投資家の行動を「裁定」とよび、通貨は投資家の裁定によって「適正水準」に収斂します。

やや数学的な表現をすると、将来の( T)年後のスポット為替レートの期待値\(E[S_T] \)が「約束」されたフォワード為替レート\( F_T\)と異なっていれば、市場の効率性を前提として裁定が行われ、両者は一致するようにレートが変化します。つまり

\[ \begin{split} F_T=E[S_T]\end{split} \]
という等式が成り立つようにフォワード為替レート\( F_T\)が調整されます。

両辺を現在のスポット為替レート\( S_0\)で割ると

\[ \begin{split} \frac{ F_T}{S_0 }=E[\frac{ S_T}{ S_0}]=E[1+s_{0,T}]\Leftrightarrow E[s_{0,T}]=\frac{ F_T}{S_0 }-1\end{split} \]
となります。\(E[s_{0,T}] \)は為替の変化率(純額表示のキャピタルゲイン)です。

この等式をフォワード・パリティとか、為替レートの期待形成条件といいます。

 

FXリターン分析の前提②:カバー付き金利パリティ

さて、FX等で高金利通貨を買うことで、高いインカムゲインが得られ、運が良ければキャピタルゲインにもあずかれます。

しかし、このような目論見はあらゆる市場参加者(個人投資家や、証券会社などの機関投資家)が狙っているものです。

もし高い金利水準にありながら割安な通貨があれば、その通貨にはまたたく間に買いが入り、一瞬で「適正水準」にまで通貨高になります。

そうなれば、将来のキャピタルゲインの幅が縮まって、投資の旨味が小さくなりますので、投資家は早くに将来の為替レートを「約束」しようとします。

こうした取引によって、フォワード為替レートで「約束」した通貨の値上がり益は、最終的には金利差と同じ水準になるよう調整されます。

数式で表すと、スポット為替レートを\( S_0\)、フォワード為替レートを\( F_T\)、売り通貨の金利(国内金利)を\( i_D\)、買い通貨の金利(海外金利)を\( i_F\)としたとき

\[ \begin{split} \frac{ F_T}{S_0 }=\frac{1+i_D}{ 1+i_F}\simeq 1+i_D-i_F \end{split}\]
という関係が成り立ちます(右辺は近似式)。

つまり、フォワード為替レートという「約束」された為替レート(カバーされたレート)で測る通貨のリターンは、内外金利差と一致するということです。

FX等の期待リターンはゼロ

フォワード・パリティとカバー付き金利パリティを組み合わせると、FX等の期待リターンが計算できます。

FX等の期待リターンは、金利差(インカムゲイン\( i_F-i_D\))と通貨高による増分(キャピタルゲイン\( E[s_{0,t}]\))の和を意味します。

フォワード・パリティより

\[ \begin{split}E[s_{0,T}]=\frac{ F_T}{S_0 }-1 \end{split} \]
であり、

カバー付き金利パリティより

\[ \begin{split}\frac{ F_T}{S_0 }-1\simeq i_D-i_F  \end{split} \]
ですから、これらを合わせると
\[ \begin{split}E[s_{0,T}]= i_D-i_F \Leftrightarrow (i_F-i_D)+E[s_{0,T}]=0\end{split} \]
となります。第一項はインカムゲイン、第二項はキャピタルゲインを表しており、これらの和、つまりFX等の期待リターンは0であることが示されました。

以上のことをまとめると、フォワード・パリティとカバー付き金利パリティによって、FX等の期待リターンは、インカムゲインとキャピタルゲインが相殺され0になる、ということです。

以上の内容は、下記書籍により詳しい説明と数式での証明が載っていますので、合わせてご参照ください。

FXで億り人になれる確率、破産する確率

期待リターンが0のFXで十分な資産を築ける確率はどれくらいなのでしょうか。

以下では当初資金1,000万円をドル円(年あたりリスク10%と想定)で運用するとして、10年後に億り人になれる確率と破産する確率を計算します。

FXはレバレッジ取引が可能ですから、レバ1倍、5倍、10倍のそれぞれのケースを考えてみます。

本性の計算は「投資シミュレーションプログラム」を用いています。シミュレーション回数は10000回です。

  1. レバ1倍の場合、10年後の資産の期待値は1,002万円、億り人になれる確率は0%破産する確率は0%
  2. レバ5倍の場合、10年後の資産の期待値は1,018万円、億り人になれる確率は1.5%破産する確率は20%
  3. レバ10倍の場合、10年後の資産の期待値は1,866万円、億り人になれる確率は3.12%破産する確率は83%

考察

期待リターン0のFXでは、レバをかけないと億り人にはなれないことがシミュレーションで明らかになりました。
また、レバを高めることで億り人になれる確率は高まりますが、同時に破産する確率も高くなることがわかりました。

まとめ

フォワード・パリティとカバー付き金利パリティという関係式から、FX・外貨預金は理論上、期待リターンが0であることがわかりました。この前提のもとで投資を行うと、レバレッジをかけないと多大な富を築くことは出来ないことが明らかになりましたが、一方で破産の確率も高まることがわかりました。

本記事の内容は複数の仮定に基づくものであり、実際の投資収益の成否を保証するものではなく、また実際にFX等で成功していらっしゃる方々の成果を否定する意図は全くありません。また、シミュレーションはあくまで確率論に基づいた予測であることをお断りしておきます。

 

終身雇用のインセンティブとは何だったか?そして、なぜそれが破綻したのか?

こんにちは、毛糸です。

先日、トヨタの豊田社長が「雇用を続けている企業へのインセンティブがあまりない」と述べたことが話題になっています。

経団連の中西会長も「終身雇用なんてもう守れないと思っている」と答えています。

終身雇用(しゅうしんこよう)とは、

同一企業で業績悪化による企業倒産が発生しないかぎり定年まで雇用され続けるという、日本の正社員雇用においての慣行(Wikipedia)

のことですが、そのインセンティブとは一体何だったのでしょうか。

そしてなぜそれが今、破綻してしまったのでしょうか。

今回は終身雇用のインセンティブとその崩壊について整理したいと思います。

終身雇用のインセンティブ

日本の終身雇用の原型は、第一次・第二次大戦の中間期に始まり、日本がまだ高度経済成長を果たす前、企業が熟練した作業者の確保に悩まされていた時期に、昇給や退職金の仕組みを整えたのがきっかけと言われています。

その後、大正デモクラシーによる雇用の慎重化や、高度成長時代の労働者不足の深刻化により、企業が人材流出を食い止めるべく、終身雇用が確立しました。

我が国の企業が長きに渡り「守ってきた」とされる終身雇用には、以下の4つのインセンティブがあります(正確には、ありました、というべきかもしれません)。

終身雇用のインセンティブ1:人材投資の不確実性の低減

終身雇用を前提とすれば、企業は採用した人材を長期的な人的資源として利用でき、人材投資の不確実性が減るというメリットがあります。

雇用した人材がすぐに辞めてしまうような状況では、企業は短期的な利益に貢献しない社内教育などを実施しづらくなりますが、終身雇用が浸透していれば、長期的戦略に基づいて人材投資を行うことが可能になります。

終身雇用が破綻し、労働の流動性(離職転職率)が高くなった場合、企業は採用のための広告費といった直接的なコストや、離職転職が多いことによる労使関係への悪影響などの間接的コストを負担することになります。

しかし終身雇用が確立していれば、企業は余計なコストを負担せずに済み、人員投資の不確実性は小さくなります。

終身雇用のインセンティブ2:余剰労働力の確保

企業はさまざまなビジネスリスクにさらされており、需給の変化によって業績が下がることもあります。

人員は基本的には自由な解雇が行えないため、需要低下時には雇用過剰(人余り)の状態になります。

しかし、その需要低下が一時的であり、いずれ需要は回復し業績は改善するという前提に立てば、教育コストを勘案すると、一時的な雇用過剰でも雇い続けることに経済合理性があります。

したがって、終身雇用によって教育コストを回収することができるのです。

終身雇用のインセンティブ3:企業特殊熟練の蓄積による生産性向上

終身雇用は勤続の長期化をもたらします。
勤続が長期化することで、その企業の文化や方法を反映した、企業独自のスキル(企業特殊熟練)が蓄積されるようになります。
企業特殊熟練はその企業のビジネスを遂行する上で必要なスキルであり、この企業独自スキルが高まることで、生産性が向上します。
終身雇用はこうした企業特殊熟練の蓄積に貢献し、生産性を上げるのに役立ってきました。

終身雇用のインセンティブ4:監督費用の削減

労働を高い能率で働かせるためには、監督が必要ですが、終身雇用は低能率な労働者を発見するのに役立つと言われます。

短期で離職転職が起こる企業では、短期的な非効率を発見するための労働者監督コストが高く付きますが、終身雇用(と退職金や年功序列制度)では、長期の労働実態から能率的でない労働者を発見し、異なった待遇に処することが可能です。

したがって、終身雇用によって長期的な目線で労働者を「品定め」することが出来るというメリットがあります。

終身雇用のインセンティブはなぜ崩れたか

トヨタ社長豊田氏の言葉を借りれば、現代日本は「雇用を続けている企業へのインセンティブがあまりない」状況になりました。
一体、何が状況を変えてしまったのでしょうか。

もっとも大きな原因は、現代という社会が目まぐるしい変化を伴うようになってきた、ということでしょう。

インターネットの普及以後、情報はまたたく間に世界に伝播し、ビジネスを国際化させ、あらゆる前提が揺らぐようになり、全く新しいテクノロジーが次々ともたらされるようになってきました。

企業の将来予測や戦略采配のミスにより、またたくまに企業生命を脅かすような状況に見舞われるようになった現代においては、もはや「需要の回復を待つ」というような悠長なことは言っていられません

したがって、企業の教育コストはもはや回収の蓋然性が高いものではなくなり(「インセンティブ2:余剰労働力の確保」の崩壊)、熟練した労働者のスキルもあっという間に陳腐化します(「インセンティブ3:企業特殊熟練の蓄積による生産性向上」の崩壊)。

一旦崩れ始めた終身雇用制は、終身雇用を前提とした均衡を崩し、採用コストの増加や人材投資の不確実性を高めます(「インセンティブ1:人材投資の不確実性の低減」の崩壊)。

流動的になった人員のマネジメントのため、追加的なコストもかかるようになるでしょう(「「インセンティブ4:監督費用の削減」の崩壊)。

このようにして、現代の日本においては、終身雇用の前提となっていた経済状況は完全に過去のものになったのです。

つまり、我が国を代表する企業のトップが「終身雇用は守れない」と口にするようになったことの背後には、変化の激し現代に終身雇用がそぐわなくなったという理由があるのです。

まとめ

企業が終身雇用を守るインセンティブには、以下のようなことが考えられます。

  • 人材投資の不確実性低減
  • 余剰労働力の確保
  • 生産性向上
  • コスト削減

しかし、これらが成り立つ前提は崩れました。

テクノロジーの進歩により、企業を取り巻く環境は様変わりしています。

終身雇用のインセンティブがなくなった現在、労働者としての私たちも、そのあり方を見つめ直す必要があります。

参考文献

勉強会「意識高い……」「レベル高そう……」いやいや、誤解してませんか?

こんにちは、毛糸です。

このところ毎月のように勉強会を企画したりしているのですが、先日「意識が高い」「近寄りにくい雰囲気」という声を耳にしました。

私はそういう声にはあまり気持ちを乱されないタイプですが、しかしそういうイメージを持たれるのは本意でなく、誤解であると感じているため、今回はそういった声に対するメッセージをお届けします。

私はなぜ勉強会を開いたか

私は昨年のプログラミングブームの中で、自分と同じようにテクノロジーを学ぶ人達と交流したいという思いで、勉強会を企画しました。

当時の私はプログラミング言語Pythonに興味を持っていました。

日頃、会計士として仕事をしていますので、Pythonを会計の仕事に役立てられないかと考え、会計×テクノロジーの勉強会 PyCPAを立ち上げました。

PyCPAという勉強会は昨年の発足以来、10回以上の開催実績があり、参加者も述べ250人を超える規模となりましたが、最初はプログラミングに興味のある会計士ツイッタラーを集めた小規模な集団でした。

会計とテクノロジー(プログラミング)という、ある種「オタク」な趣味を共有するために、SNSで仲間を募り集まってみた、とうただそれだけの勉強会です。

PyCPAという勉強会は、これまで色々な形式で開催されてきました。

  • ただ集まって各自黙々と作業を行うもくもく会
  • 講師を招き実務の最先端を学ぶセミナー
  • 実際にプログラミングをしながら学ぶハンズオン
  • 専門書をみんなで読み進めていく輪読会
などなど、多彩なバリエーションで開催しています。
勉強会は完全無償で運営されており、会場の提供や講師の登壇まで、すべで勉強会のビジョンに共感して下さる方々の善意で成り立っております。

勉強会に対する誤解

そんな勉強会PyCPAですが、最近「意識が高い」「レベルが高くて近づきがたい」という声をちらほら耳にするようになりました。
前述の通りPyCPAは、Twitterに生息する一部の「オタクな」会計士による趣味の集まりとして発足しました。
今でこそ多くの支援者に恵まれ、コミュニティとしての輪郭を備えつつありますが、「楽しさを探求する」というあり方は、当初から全く変わっていません。
意識の高さを志向しているようなことはまったくなく(おそらくコミュニティメンバーもそれを望んでおらず)、ただ楽しいから・知りたいからと言う理由で、探求し発信しています。なので、
なに意味わからんこと追い求めてるんだあいつら……
という方向で近寄りがたいのならよくわかりますが、
なんかレベル高いことやってるよ意識たかっ……
と思ってるなら、それは大きな誤解です。
もちろん、会計やテクノロジーに興味を持ち探求することを楽しむ人種が世の中の多数派だとは思っておりませんので、そういう意味では「尖った」集団であることには間違いないのですが、もし「意識高い」奴らと映っているのであれば、それはこのコミュニティの本質を十分理解いただいていないということでしょう。

やりたいからやる、楽しいから学ぶ

私の周りには、私の興味ある話題について話を深められる人があまりいません(私の交友関係の狭さゆえです)。
私が気になる、AIの新技術とか、正規分布の和とか、簿記の代数的構造とか、そういう話題を一緒に楽しめる人が近くにいないのです。
しかしSNSは違いました。
SNSではどんなにニッチな趣向でも、広く発信すれば必ずと言っていいほど共感してくれる人が現れます。
SNSの広がりによって、リアルな人脈を超えた人間関係が構築できるようになりました。
こうしたネットでのつながりをリアルに感じたい、同じ志を持ち共通の話題を楽しめる人たちともっと交流したい、そういう気持ちが勉強会を企画する原動力になりました。
やりたいからやる、楽しいから学ぶ。
そうした娯楽を一緒に楽しめる仲間が、勉強会に集まっています。
そこにあるのは決して意識の高いインテリジェンスな集団ではなく、ちょっと変わったことに興味を持つ人たちが集まる探求の場なのです。

まとめ

「意識高い」「近寄りにくい」という声が、私たちの勉強会を形容する言葉としてはちょっとずれていると思い、考えていることを述べました。
私たちの勉強会は、ただ楽しいから集まり、知識を共有しているだけです。
もし「レベルが高くて……」と遠ざけてしまっている方がいたら、それは大きな誤解です。

PyCPAで登壇する人たちだって、最初はみんな手探りで学んでいたのです。

もし、今まで勉強会なんて行ったことも開いたこともないけれど、興味があるという方がいらっしゃったら、勉強会に足を運んでいただくか、こんな勉強会を開きたいとリクエストしてみてください。
参考記事:PyCPAで勉強会を開催する、もしくはリクエストする方法

どうせ楽しむなら、話のわかる人と一緒にやったほうが楽しいのです。

一緒に楽しく学びませんか。

PyCPAリアル・オプション輪読会まとめと参加者アンケート結果

こんにちは、毛糸です。

先日、会計×テクノロジーをテーマとした勉強会コミュニティPyCPAの『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』輪読会第1回が開催されました。

今回は20名近い参加者にお集まりいただきました。

本記事では今回の輪読会の振り返りをしてみたいと思います。

参加者には事前にアンケートにお答えいただいてますので、その結果もあわせて公開します。

PyCPAとは

PyCPAは、テクノロジーの進化を武器に次世代の担い手となる探求者たちのコミュニティです。

もともとは、プログラミング言語Pythonに関心のある公認会計士(CPA)の勉強会として発足しましたが、現在ではより広く、テクノロジー全般に興味を持ち、探求する意欲のある、会計士、経理財務人材、エンジニアなどがメンバーとなって活動しています。

PyCPAは毎月勉強会を開催しており、もくもく会やセミナー、参加型ワークショップを行っています。

現在のコミュニティメンバーはSlack登録者ベースで170名ほど、2019年5月現在の勉強会の累計参加者は250名を超えます

PyCPAコミュニティと勉強会への参加は無料となっており、運営事務、会場確保、講師の登壇等はすべて、コミュニティのビジョンに共感していただいている組織・個人のボランティアでなりたっています。

PyCPAにコミュニティメンバーとして参加したい方はPyCPAのSlackにご登録ください。

ツイッターでのPyCPAコミュニティメンバーのやり取りは、こちらからご覧いただけます。

リアル・オプション輪読会の概要

今回の勉強会は初の輪読会となりました。

輪読会とは、複数人で同じ本を読み進め、集まって内容を共有し、理解を深める方法です。

今回の輪読会で取り組んだのは『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』という専門書です。


この本は、ファイナンス(金融工学)とプログラミング(ExcelVBA)を用いて、経営意思決定の柔軟性が創出する価値=リアル・オプションを定量的に評価する手法が学べる本です。
参考記事:『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』内容の概説、こんな人におすすめ、いい点と注意点

本書はリアル・オプションを学ぶとても良い題材である一方で、なかなか難易度の高い本だったので、輪読会の題材にしました。

今回は初回ということで、輪読会の目的や進め方について説明しました。
参考記事:【開催前夜】リアル・オプション輪読会の目的、理由、進め方

輪読は第1章を扱いました。

第1章はプログラミング言語ExcelVBAの基礎で、テキストに書かれたコードを入力しながら参加者全員で読み進めました。

VBAの始め方や、変数や関数の定義、for文やDoWhile文などの基本構文、配列の使いかたなどについて学びました。

途中、ファシリテーターから「このコードはモンテカルロ法のこんなシーンで役に立ちます」「この構文は株価シミュレーションの計算で使います」というような解説をはさみながら進めました。

進度を合わせて読み進め、コードも入力しながらということでしたので、理解にばらつきが出るかな?と恐れていましたが、みなさん思いの外つまづくことも少なく、理解度、満足度ともに高かったように思います。

感想とフィードバック

予習について

全員でコードを入力しながら、さくさくと読み進めたので、ちょっと駆け足気味になりました。

この点に関して、参加者から「次回は予習して来ようと思った」という声が上がりました。

事前に準備をしてくれば、輪読会をより意義深いものにできそうです。

バグについて

事前に予習してきた方も、その場でコードを入力した人も、みなさんバグ=プログラムが動かない問題に悩まされていました。

しかし、参加者のひとり(エンジニア)の方から「バグは出るもの、人は完璧じゃない、能率的にバグがとれればOK」という前向きな意見が出て、参加者の気持ちも楽になったように思います。

プログラミングにはバグがつきものですので、輪読会のように他の人と助け合える環境で学習を進めるのがよいと思います。

練習と実践について

プログラミングは一度勉強しても、使わなければすぐ忘れてしまう、という感想が出ました。

たしかに、人は忘れる生き物ですから、どんなに勉強しても使わなければ忘れてしまいます。

もし勉強したことを忘れたくないのであれば、お仕事で使うなり、勉強会で披露するなりして、知識の維持に努める必要がありそうです。

参加者アンケート結果報告

PyCPA リアル・オプション輪読会第1回参加者には、事前に以下のアンケートにお答えいただいています。
  • 参加者の所属
  • 参加理由
  • 意見・感想・提案など
その回答状況を見ていきましょう。

参加者の所属

PyCPAは会計士の勉強会として発足したこともあり、会計士等の比率が一番多い結果となりました。

次いで一般事業会社(経理財務系)の方、金融機関勤務と続きます。

輪読会の内容がプログラミングであったため、エンジニアの方の存在感はとても大きかったです。

会の最後にMVPを決めたのですが、AI開発がご専門のプログラマの方が絶大な支持を得て見事MVPを獲得されました。

参加理由

リアル・オプション輪読会の参加理由は、金融工学、ファイナンスへの関心が首位、次いでリアル・オプション、企業価値評価への関心となっています。

みなさんお仕事で金融・ファイナンスに関わりがある方がほとんどで、その理解を深めたいという方が大多数でした。

リアル・オプションという経営意思決定のためのツールを学びたいという、このテキストの目的ど真ん中のかたもたくさんいらっしゃいました。

ファイナンスにせよ、VBAプログラミングにせよ、このテキストはとてもよい教材になりますので、是非チャレンジしてほしいと思います。

参考記事:『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』内容の概説、こんな人におすすめ、いい点と注意点

意見・感想・提案など

自由回答で寄せられた意見等についてまとめます。

まったく門外漢ですが、なにか楽しそうだと思いました

モンテカルロ法という言葉ぐらいしか知らないので、その内容を理解したい

私も最初はそうでした。

モンテカルロ法という何やら凄い技術があるらしい、なんか楽しそう。

そういう興味が人生を豊かにしてくれると信じています。

一緒に楽しみましょう。

将来的に転換社債のプライシンクモデルを作りたいです!

業績連動型のストックオプション

モンテカルロ法は金融商品評価の強力なツールで、その応用範囲は膨大です。

輪読会での学びをきっかけに、よりアドバンストな内容に挑戦してみるのもいいでしょう。

意思決定にどう活かすのかに興味があります。

リアル・オプションは経営意思決定のツールとして有用です。

単に本を読み、ふーん、そういう手法があるのね、で終わらせることなく、是非輪読会で他の方とディスカッションすることで、ビジネスへの応用について探っていきましょう。

私もとても楽しみです。

まとめ

PyCPA リアル・オプション輪読会の振り返りについて述べました。

徐々にその裾野を広げつつ、コミュニティとしての輪郭を備え始めたPyCPAですが、まだまだ始まったばかりです。

みなさんの学ぶ意欲と発信で、一緒に楽しみましょう。

【開催前夜】リアル・オプション輪読会の目的、理由、進め方

こんにちは、毛糸です。

この記事を書いている日の次の日(2019/5/11)に、『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』の輪読会を開催します。
『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』輪読会第1回 

第1回開催に際して、この輪読会の目的、なぜ輪読会を開くのか、どんな風に進めるのかについて整理しておきたいと思います。

そもそも輪読会とは何か

輪読会とは、複数人で同じ本を読み進め、集まって内容を共有し、理解を深める方法です。

大学のゼミやエンジニアの勉強会の一環として行われています。

事前に内容をまとめ、当日にプレゼンテーションを行う方式がとられることが多いです。

本を独りですべて熟読する必要がないので、効率的に内容を理解できます。

『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』輪読会の目的

この輪読会の目的は『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』を読破することです。

第一目標は「読むこと」であり、完全な理解は敢えて目指しません。

理解度の目安でいうと、他の人に「この本はこういうことが書いてあるんだよ」と雰囲気を語れるレベルでOKです。

なぜ「理解すること」を第一目標にしないかというと、本書がとてもハイレベルな内容であるからです。

本書の内容は本ブログの記事『『モンテカルロ法によるリアル・オプション分析』内容の概説、こんな人におすすめ、いい点と注意点』にまとめてありますので、その難しさの雰囲気がわかると思います。

とてもハイレベルなので、もはやみんなで足並み揃えて理解しよう、というのが不可能です。

十分に理解している人が参加者に講義するスタイルのセミナーであれば可能かもしれませんが、今回はそういった形式にはしないので、とりあえず「読む」ことができればOKということにします。

もちろん、「読む」ことから理解は始まりますし、輪読会への参加でかなりの理解が得られるので、決して「理解」を放棄しているわけではありません。

なぜ輪読会を開くのか、独りではいけないのか

本書を輪読会で読む理由は3つあります。

1.難しいから

本書はファイナンス(金融工学)とプログラミング(VBA)の理解がなければ読めません。

独りでこの本に取り組むとなると、かなり気合を入れて取り組む必要があります。

しかし、忙しいビジネスマンが、難解な数学やプログラミングにじっくり取り組むのはなかなか厳しいものがあります。

輪読会で読むことで、ファシリテーターや他の参加者の理解を共有でき、意見を聞きながら読むことが出来るので、理解が深まります。

2.甘えてしまうから

独りでは「わかったつもり」になったり、テキストに書いてあるプログラミング・コードを眺めるだけで入力しなかったりと、甘えが出ます。

本書はプログラミング・コードを実際に打ち込み、手を動かしながら読み進めることを前提としているので、甘えると何も身につきません。

同じ目標を持つ人で集まって、みんなで読み進めることで動機づけを図ります。

3.実務的だから

リアル・オプションは経営意思決定のためのツールであり、ビジネスに活かすことの出来る実務的な技術です。
 
したがって、リアル・オプション分析をどう活用するか、という視点がとても大切になります。
 
しかし、独りでは想像力に限界があり、学びをどう活かすかというところに目が向かない可能性があります。
 
輪読会でディスカッションすることにより、自分では思いつかないアイデアに触れられます。
 

輪読会の進め方

輪読会は通常、発表者を事前に決めておき、持ち回りで本の内容をプレゼンテーションします。
 
しかし、リアル・オプション輪読会はまず「読むこと」を目的としており、そのためには参加のハードルをなるべく下げたいと思っています。
 
したがって、参加者には特に事前準備を強制せず、輪読会の中で読み進め理解するようなやり方をとります。
 
リアル・オプション輪読会では、参加者が順繰りに、1人1パラグラフを音読します。
 
その内容について、意見がある人は発言してもらい、また、ファシリテーター(僭越ながら私が務めます)が解説を加えます。
 
テキストに記載されたVBAのコードは、事前に入力してきた人がいれば、そのプログラムを実際に動かしてみます。
 
動かなければ、その場でみんなで改善策を考えます。
 
なので、動くプログラムが作れたかどうかはさておき、事前にコードを書いてきた人の成長が加速するような進め方をとります。
 
会の終了後、動くコードを参加者で共有します。
 
また、会の終わりに、その日のMVPを決めて、みんなで讃えます。
 

まとめ

リアル・オプション輪読会の前日ということで、輪読会の目的や、理由、進め方についてまとめました。
 
ともに学ぶ人がいるというのは嬉しいことです。
 
是非こうした機会を活用し、スキルアップに役立ててください。
 

 

 

 

「去年はこうでした」が通用するための条件

こんにちは、毛糸です。

先日、会計士の方がTwitterでこういった趣旨の発言をしていらっしゃいました。

「去年はこうでした」は通用しない。1年前と何も変わっていないと思っているのか。

このつぶやきに関して、私はこうツイートしました。

今回は「去年はこうだった」という発言が通用するための条件について考えてみたいと思います。

前例踏襲は悪いことか?

「去年はこうだった」という発言の趣旨は、「去年はこういう手順で仕事をして、特に問題にならなかった。今年も同じようにやっているのだから、問題ないはずだ」ということでしょう。

この「去年はこうだった」という考え方、前例踏襲の姿勢というのは、個人的には間違った考え方ではないと思います。

なぜなら、去年の作業結果が妥当で、今年も去年と同じ前提と手続きを踏襲しているのなら、今年も同様の結果になる蓋然性が高いからです。

もし、去年の作業内容と結果を完全に忘れ去り、毎年「スクラップ・アンド・ビルド」でゼロから作業を組み立て、結論を導くようなやり方をしていたら、同じ作業と判断を毎年繰り返すことになり、非効率です。

同じ手続き、同じ判断を繰り返したところで大きな意味はなく、単純に手間が増えるだけですから、既に得た結論(去年はこうだった)に依拠できるならしたほうが、負担が少なくて済みます。

疑うことのコスト

前例踏襲は、最近よく目にする「疑うことはコスト」にも通じる考え方です。

「疑うことはコスト」というのはGoogleに浸透している価値観であるとされ、現代のビジネスマンのあり方に指針を与えてくれる良書『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』のなかで「ハイパー性善説」として紹介されている考え方です。

変化の激しい現代において、人を疑いスピード感を害するのは、大きな損失になりえます。

今回の「去年はこうだった」に関しても、去年の手続きと結果をいちいち疑うことで、追加的な負担が生じます。

毎回前年の結論を疑ってかかるのはコストがかかり、効果も大きくないでしょう。

むしろ、毎期踏襲しても問題が出ないように、しっかり作り込んで確実に引き継ぐべきで、私がコンサルを行っている大企業の経理では、そういう仕事の仕方をしています。

「去年はこうでした」が通用するための条件

「去年はこうでした」という前例踏襲のマインドは、同じ作業を繰り返すことを回避し、仕事を効率化するために一役買っています。

しかし、どんな場合でもこうした考え方が通用するわけではありません。

「去年はこうでした」が通用するための条件、それは、

去年と比べて作業の前提や手順に変更がない

ということです。

「去年はこうでした」というのは、去年と今年とで作業が同じならば結論も同じである、という仮説に基づいた判断です。

この判断が妥当であるためには、去年と今年の作業の前提条件が同じである必要があります。

去年と今年とで作業環境が様変わりしているなら、同じ手続きをとったとしても、同じ判断が行えるとは限りません。

したがって、「去年はこうでした」が通用するためには、「去年から前提に大きな変更はない」ということをきちんと確かめる必要があるのです。

冒頭の会計士さんも、「去年はこうでした」は変化の激しい状況においては通用しない、だから言ってはいけないのだ、という主張であると推察します。

前提が変わっていないかどうかをきちんと判定した上で、前例踏襲を行う分には、大きな問題は発生しないのではないかと思います。

前提の変化は、業務に組み込まれた仕組み(内部統制)でクリアできる問題ですので、安易に「去年はこうでした」と言わせないためのルールや仕組みをきちんと整えたいものです。

まとめ

「去年はこうでした」という前例踏襲は、仕事の無駄を省き効率化するのに役立ちます。

「疑うことはコスト」という考えにも通じるものがありますが、いつも妥当であるとは限りません。

「去年はこうでした」という主張が通用するためには、去年から前提に大きな変更がないことを、きちんと確認する必要があります。