会計学にも数学にも「コンバージェンス」という言葉があります。
この記事では2つの「コンバージェンス」が一体どういう概念なのか説明したあと,会計学におけるコンバージェンスが数学におけるコンバージェンスとみなせるのではないかというアイデアについて述べます。
会計学にも数学にも「コンバージェンス」という言葉があります。
この記事では2つの「コンバージェンス」が一体どういう概念なのか説明したあと,会計学におけるコンバージェンスが数学におけるコンバージェンスとみなせるのではないかというアイデアについて述べます。
\( V\)を\(m \)次元ベクトル空間,\( W\)を\(n \)次元ベクトル空間とします。
写像\( f:V\to W\)が線型写像とは,\( m\)次元ベクトル\( \boldsymbol{ a},\boldsymbol{ a_1},\boldsymbol{ a_2}\in V\)とスカラー\( c\)に対して以下が成り立つことをいいます。
上記1と2を合わせて線型性といいます。
\( f\)を変換とよぶことにすると,加法性とは「和の変換は,変換の和」と言い表せます。斉一次性は「スカラー倍の変換は,変換のスカラー倍」と言い表せます,
\( f\)が線型写像であるとき,\( m\)次元ベクトル\( \boldsymbol{ a_1},\boldsymbol{ a_2},\cdots\)とスカラー\( c_1,c_2,\cdots\)に対して以下が成り立ちます。
線型写像はベクトル空間の準同型とも言えます。
ベクトル空間とは体上の加群であり,加群は和とスカラー倍を扱うことができます。
準同型とは「構造を保つ」ような写像のことで,「和の変換は,変換の和(加法性)」と「スカラー倍の変換は,変換のスカラー倍(斉一次性)」という性質が「構造を保つ」ということです。
線型写像は数学のさまざまなシーンに表れます。以下では特に有名なものを挙げます。いずれも線型写像の定義域と値域がベクトル空間であることをまず示す必要がありますが,そこは端折ります。
\( \mathbb{R}\)上の適当な区間\( [a,b]\)上で定義された実数値可積分関数の空間\( F=\left\{f|f:[a,b]\to \mathbb{R} \right\}\)を考えます。
この区間での定積分は線型写像です。以下のように線型性を確かめられます。
\( f,g\in F\)に対して\( \int_a^b(f(x)+g(x))dx=\int_a^b f(x) dx +\int_a^b g(x)dx\)なので加法性が成り立ちます。
また\( f\in F\)と\( c\in \mathbb{R}\)に対して\( \int_a^b cf(x)dx=c\int_a^b f(x) dx\)なので斉一次が成り立ちます。
微分は,微分可能な関数の空間から関数空間全体への写像であり,線型写像です。以下のように線型性を確かめられます。
微分可能な関数\( f,g\)に対して\( (f+g)’=f’+g’\)なので加法性が成り立ちます。
また微分可能な関数\( f\)とスカラー\( c\)に対して\((cf)’=c f’ \)なので斉一次が成り立ちます。
確率変数の期待値も線型写像です。以下のように線型性を確かめられます。
確率変数\( X,Y\)に対して\( \mathbb{E}\left[ X+Y\right]=\mathbb{E}\left[ X\right]+\mathbb{E}\left[Y \right]\)なので加法性が成り立ちます。
また確率変数\( X\)とスカラー\( c\)に対して\(\mathbb{E}\left[c X\right]=c\mathbb{E}\left[ X\right] \)なので斉一次が成り立ちます。
複式簿記は,環\( R\)上の自由加群\( R^n\)から環\( R\)上の加群\( M\)への加群準同型\( \sigma:R^n \to M\)の核\( \mathrm{ker} \sigma\)の構造をもちます。
上述の線型写像は加群準同型の特別な場合なので,線型写像\( f\)の核\( \mathrm{ker} f\)も複式簿記が備えるべき性質をもっているといえます。
通常の複式簿記で扱うのは整数ベクトルの空間ばかりです。しかし定積分や期待値が線型写像であると考えると,定積分すると0になる関数の空間(定積分という線型写像の核)や期待値が0になる確率変数の空間(期待値という線型写像の核)もまた,複式簿記と類似の構造を持っていることになります。
こう考えると,複式簿記「的な」性質は,実はとても基本的な性質なのだと言えそうです。
本記事は以下の書籍を参考にしました。線型代数の由緒正しいテキストです。ベクトルと行列の基本的な演算からはじめて,ベクトル空間論やテンソルなど抽象的な代数の世界へと導いてくれます。
Wikipediaの線型写像のページも参考にしました。
このブログで不定期連載中の【君の知らない複式簿記】では、簿記の代数構造に関する研究結果を紹介しています。
【君の知らない複式簿記】シリーズはこちらからどうぞ。
この記事では簿記・会計における「矢印」を3つ紹介します。
複式簿記を前提とする会計の世界において,ここであげる3つの概念はいずれも「矢印」で表現できます。
簿記・会計の概念を「矢印」で表現することで,専門用語を理解する助けになります。
この記事では、仕訳の履歴の数学的表現と、その代数構造についてまとめます。
会計は写像であるといわれます。このフレーズはどう理解したらいいのでしょうか。
本記事ではこのフレーズの意味と、関連する会計学のテキストを紹介します。
会計を企業の状態から会計情報への写像と見たとき、異なる2つの状態が「似ている」ならば、アウトプットとしての会計情報も「似ている」ことが期待されます。
本記事では企業の状態が「似ている」ことを数学的に同定式化するかについて考えます。
会計には、異なるルールのさまざまな会計があります。例えば、財務会計や税務会計、日本基準と国際基準、連結と単体などは、同じ取引に対して異なる会計を適用することで生じる差異です。
本記事ではこの会計ルールの違いを、圏論における「自然変換」と関連付けてみたいと思います。
この記事では自然変換(natural transformation)の定義を紹介したあと、会計という関手の自然変換について触れます。
本記事の内容は以下の書籍を参考にしています。
企業におけるあらゆる状態変化が会計情報に反映されるわけではありません。
たとえば、企業の役員の交代は、企業の状態を変化させる重要な理由と考えられますが、役員の交代に関する会計処理はありません。
このような「会計上の取引ではない」状態変化は、数学的にどのように表したらよいのでしょうか。
ひとつの考え方は、ある状態遷移\( f\)に関して、その会計的な表現\(\boldsymbol{v }=C_A(f)\)が恒等写像になるとき、\( f\)を「会計上の取引ではない」と定義するというものです。
【参考記事】【君の知らない複式簿記8】会計は写像であり、関手である。
\(\boldsymbol{v }=C_A(f)\)が恒等写像になるということは、\( f\)という状態遷移がおきても、会計状態には変化がない(つまり仕訳を行わない)ということです。
このような\( f\)は、少なくとも\( C_A\)という会計規則に基づく限りにおいては、会計情報にはなんら影響を及ぼさないという意味で「会計上の取引ではない」と考えられます。
このような考え方は、以下のテキスト第6章において、会計システムをオートマトンとして描く際に述べられています。
複式簿記、人類の偉大なる発明の一つであり、600年に渡って使われ続けるビジネスの基本言語です。
【君の知らない複式簿記】シリーズは、そんな複式簿記の普段とは違う側面を探求するコンテンツです。
本記事では、私がなぜ複式簿記の別の表情に気づいたのか、複式簿記の知らない一面を追うとはどういうことなのか、説明します。
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