数学

代数的構造の関係を図示してみた(マグマ、半群、モノイド、群、アーベル群、環、可換環、整域、体)

こんにちは、毛糸です。

本記事では、代数学において考察対象となる代数的構造について整理します。

群や環といった基本的な代数的構造が、それぞれどういう包含関係になっているのかを、図を用いてまとめます。

群・環・体、代数的構造の包含関係

群や環などの代数的構造は、包含関係をイメージしながら整理しておくと便利です。

たとえば

群の演算(加法)が可換であって、乗法についても閉じており、乗法の結合法則と加法乗法の分配法則が成り立つものが、環である。

というふうに、条件の緩い代数的構造(群)から始めて、条件を追加していくことでより複雑な構造(環)を得ることが出来ます。

この代数的構造の包含関係を図示したものが以下です。

この図は、こちらのページ「群・環・体 (大人になってからの再学習 )」に掲載されている同様の図を参考にして、群よりも単純な代数的構造を明示し、表現を修正したものです。

なお、上の図では条件が追加されるごとに領域が大きくなっていますが、これは「集合の大きさ」を表してはいません。

条件が厳しくなれば、集合としては「狭まっていく」ので、イメージとしては以下のような感じです。

諸注意

代数的構造の包含関係図はあくまでイメージであり、正確でない表現を多分に含んでいます。

そもそも代数的構造は、ある集合と、その上の二項演算をセットで考えるものですが、上の包含関係図ではその「ある集合」とその元についての説明は省かれています。

つまり、上の包含関係図におけるマグマの説明

\(a \)と\(b \)が含まれるなら\( a+b\)も含まれる

は、

集合\( M\)の任意の元\( a\)と\( b\)について、二項演算\(+ \)が定義されていて、\( a+b\)が\( M\)の元であるとき、\( \left( M,+\right)\)をマグマと呼ぶ。

と述べるのが正確です(しかし前者の説明でも雰囲気はわかるでしょう、そのための図解です)。

また、たとえばマグマの条件を「加法について閉じている」と表現しており、二項演算を「\( +\)」で表していますが、一般にはマグマは二項演算について閉じていればよく、加法である必要はないですし(むしろ乗法と呼ぶほうが多いのかも)、二項演算を「\( +\)」で表す必然性もありません。

ただ、条件列挙の順序の観点から、群・環・体の包含関係のイメージを持つための「方便」として、あえて加法と言い「\( +\)」の記号を使っています。

その他の説明も、似たような理由から正確でない部分を含んでいますが、この図の趣旨は基本的な代数的構造の関係を直感的に捉えることですので、ご容赦ください。

正確な定義はテキストに載っていますから、そちらを参照していただくことにして、包含関係図はあくまで「直感的理解」のための使うのが良いでしょう。

代数学を理解するためのテキスト・参考書

群や環といった基本的な代数的構造を理解するためのテキストとしては、以下が入門的です。

解析学(微積分)が好きだけど、群や体の定義くらいは知っておきたい、という方は、解析学の名著「解析入門Ⅰ」の最初に、実数体を定義する際に基本的な概念が登場します。

代数学の基本的なところから始めて、最近注目を浴びている圏論も勉強したいという方は、こちらの本がまとまっています。

行列の基本、最初の一歩

こんにちは、毛糸です。

最近、有志を集めてデータサイエンスの実践的手法を学ぶ勉強会を開催しています。

その勉強会で教材にしているのが、『東京大学のデータサイエンティスト育成講座』です。


本書はプログラミング言語Pythonを用いて、データ分析の手法や応用について解説する、大変良いテキストです。

データ分析と数学

データ分析の手法を学ぶには、統計学をはじめとする数学の知識が必須です。

とくに、昨今話題のAI・機械学習・データアナリティクスといったトピックスを理解するには、高校数学以上のやや高度な数学が不可避になっています。

具体的には、微分積分学(解析学)や行列(線形代数学)についての大学初級レベルの知識がまず求められます。

しかし、かんたんな微積分はさておき、行列に関しては、高校時代に文系課程を修了した人や、若い世代の人は、高校数学の範囲内で勉強してこなかったため、

いざデータ分析の勉強をしてみようと思っても、テキストの最初からちんぷんかんぷん、ということが多々あります。

本記事ではこの「行列」に関する「最初の一歩」を踏み出すことを目的として、高校レベルの行列について基本的な事項をさらっと整理しておきます。

行列とはなにか、その定義とイメージ

私たちが数学でよく目にするのは、整数\( 1\)とか、変数\( x\)とか、関数\( f(x)\)だったりします。

これらの文字や数字は、今までは「単体で」目にすることが多かったでしょう。

しかし、これら文字や数字を

並べて、まとめる

ことで、計算が簡略化されたり、数式が見やすくなったりと、いろいろと嬉しいことが起こります。

本記事で解説する行列(行列、martixマトリックス)とは、「文字や数字を長方形に並べ、両側をカッコでくくったもの」のことです。

行列は次のように表します。

\begin{equation} \begin{split}  \left( \begin{array}{ccc} 1 & x & 5 \\ y & 0 & 7 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

このようにして作った行列の、ヨコ方向のまとまりを「行(row)」、タテ方向のまとまりを「列(column)」といいます。

上の行列において、行は2つあり、
\begin{equation} \begin{split} 第1行 = \left( \begin{array}{ccc} 1 & x & 5 \end{array} \right)\\ 第2行 = \left( \begin{array}{ccc} y & 0 & 7 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

です。

上の行列において、列は3つあり、
\begin{equation} \begin{split} 第1列= \left( \begin{array}{c} 1 \\ y \end{array} \right), 第2列= \left( \begin{array}{c} x\\ 0 \end{array} \right), 第3列= \left( \begin{array}{c} 5 \\ 7 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

です。

行列の大きさ・サイズは、行数と列数によって言い表すことが出来ます。

行数が\( m\)、列数が\( n\)の行列を「\( m\times n\)行列」といいます。

正方行列とはなにか

「文字や数字を長方形に並べ、両側をカッコでくくったもの」が行列ですから、長方形の特別な場合である正方形に並べることがあっても構いません。

正方形に並べるとき、行数と列数は一致しますので、「\( n\times n\)行列」が作れることになります。これを正方行列といいます。以下の行列\( A\)は\( 3\times 3\)行列です。

\begin{equation} \begin{split} A = \left( \begin{array}{ccc} 1 & x & 5 \\ y & 0 & 7\\ -2& 0.4 & z\\ \end{array} \right) \end{split} \end{equation}


行列の要素・成分

行列のなかに置かれている数字や文字は「成分」もしくは「要素」と呼ばれ、行数と列数を指定することで特定してあげることが出来ます。

上の行列\( A\)における\( y\)は、2行目・1列目の成分です。

行列の成分を文字を使って表すこともあり、たとえば行列\( A\)の\( i\)行目・\( j\)列目の成分を表すときに\( a_{ij}\)と表したりします。

上の行列\( A\)では
\begin{equation} \begin{split} a_{2,1}&=y\\ a_{3,2}&=0.4 \end{split} \end{equation}

です。

行列の足し算(加算)と引き算(減算)

数字が足し引きできたのと同様、行列も足し引きできます。

行列は「長方形に並べた要素」のことでした。

行列を足し引きしたければ、「要素ごとに足し引きする」のが自然でしょう。

\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)+ \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} a+p & b+q \\ c+r & d+s \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)- \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} a-p & b-q \\ c-r & d-s \end{array} \right) \end{split} \end{equation}


このように足し算引き算を考える上で大切なことは、足し引きする行列の行と列の数が一致している必要がある、ということです。

例えば\( 2\times 3\)行列と\( 2\times 4\)行列を足すことはできません。

行列の実数倍

行列を実数倍(定数倍)するときも、「要素ごとに掛け算する」というルールで計算できます。

\begin{equation} \begin{split} k\times \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} ka & kb \\ kc & kd \end{array} \right) \end{split} \end{equation}



行列同士の掛け算(乗法)

行列に実数を掛けるのは簡単でしたが、では「行列と行列を掛ける」ことはできるのでしょうか。

実は、ここが行列を勉強するときの最初のつまづきポイントです。

最初は「要素ごとに掛け算したらいいのでは?」と思うでしょう。

つまり掛け算を(あえて\( \times\)と書かずに)\( \circ\)と書いて
\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right)\circ \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right)= \left( \begin{array}{cc} ap & bq \\ cr & ds \end{array} \right) \end{split} \end{equation}


として掛け算するのが自然だ、と思いたくなります。

この掛け算をアダマール積とか要素積といいます。

しかし、この掛け算は「ベクトルの内積」と相性がよくありません(内積についてはこちらのサイトを参考にしてください)。

ベクトルの内積については別の機会に説明をしますが、ここでは「要素ごとの掛け算は、行列同士の掛け算としてはあまり適当でない」ということを押さえておいてください。

「要素のまとまり」を考える行列においては、実は以下のようなルールで、行列同士の掛け算を考えると都合がいいとされています(掛け算記号\( \times\)は省略して書くのが通常です)。
\begin{equation} \begin{split} \left( \begin{array}{cc} a & b \\ c & d \end{array} \right) \left( \begin{array}{cc} p & q \\ r & s \end{array} \right) = \left( \begin{array}{cc} ap+br & aq+bs \\ cp+dr & cq+ds \end{array} \right) \end{split} \end{equation}

この掛け算のルールを言葉で表現すると、「左の行列の各行と、右の行列の各列の内積を並べる」ということになります。

より詳しい内容は参考文献に書いてありますので、是非読んでみてください。

行列の掛け算は、右の行列の列数と、左の行列の行数が一致している必要があります。

つまり\( l\times \underline{m}\)行列と\(\underline{m}\times n \)行列のようなセットでないと、計算することが出来ません。

また、行列\( A\)と\( B\)の掛け算であっても、\( AB\)と\( BA\)は一致しないことがあります。つまり、行列\( A\)に、行列\( B\)を右から掛けるか、左から掛けるかによって、答えが変わるのです。

行列の掛け算のポイントをまとめるます。

  • 要素ごとの掛け算は、あまり適当でない
  • ちょっと複雑な計算によって、掛け算を定義する(右の行列の行と、左の行列の列の、内積をならべる)
  • 右の行列の列数と、左の行列の行数が一致している必要がある
  • 行列を右から掛けるのと左から掛けるのとで、答えが変わる


単位行列とはなにか

さて、すこし頭の体操です。

以下のような「\( 1\)を斜めに並べ、他の要素は\( 0\)」になるような正方行列\( E\)(ここでは\( 2\times 2\)行列)を考えてみましょう。
\begin{equation} \begin{split} E= \left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right) \end{split} \end{equation}


このとき、\( 2\times 2\)の正方行列\( A\)について
\begin{equation} \begin{split} AE=EA=A \end{split} \end{equation}
が成り立ちます。実際に計算してみてください。

\( E\)は右から掛けても左から掛けても、掛けられる行列\( A\)がそのまま返ってきます。

「どんな実数も1を掛けると、掛けられた数がそのまま返ってくる」のと似ていますね。

この「\( 1\)を斜めに並べ、他の要素は\( 0\)」になるような正方行列\( E\)を単位行列といい、「行列の世界での\( 1\)のような役割」を果たします。

逆行列とはなにか

実数を考えたとき、かならずそれに逆数が存在することを、私たちは知っています。

実数\( a\)に「ある実数\( x\)」を掛けた答えが\( 1\)になるような実数のことを、\( a\)の逆数と言うのでした(この\( x\)はつまり\( \frac{ 1}{ a}=a^{-1}\)のことです)。

\( 2\)の逆数は\( \frac{ 1}{ 2}\)ですし、\( \sqrt{3}\)の逆数は\(\frac{1 }{ \sqrt{  3}}=\frac{\sqrt{ 3 }}{ 3} \)です。

行列にも逆数のようなものが存在します。

つまり、行列\( A\)に「ある行列\( X\)」を掛けた答えが単位行列\( E\)(行列の世界での\( 1\)の役割)になるような行列のことを、\( A\)の逆行列といい、\( A^{-1}\)と表します。

数式で表すと

\begin{equation} \begin{split} AX=XA=E \end{split} \end{equation}
となるような行列\(X \)が、\(A \)の逆行列です。
\begin{equation} \begin{split} AA^{-1}=A^{-1}A=E \end{split} \end{equation}
と書いても同じことです。

逆行列なんてどこで使うんだ、と思われる方もいるでしょう。

私たちが方程式\( ax=1\)を解くときに、\( a\)の逆数\(\frac{ 1}{ a} \)が登場して\( x=\frac{ 1}{a }\)と解くことができたように、

行列を使って方程式を解くときなどに、逆行列は大活躍します。

行列\( A\)の逆行列\( A^{-1}\)の求め方や、逆行列を使った方程式の解き方は、参考文献のテキストに説明されています。

参考文献

本記事の参考にした『もう一度高校数学』は、高校1年生の数学から初めて、微積分や行列など、AIやデータ分析を理解するために必須の数学をイチから学び直せる良書です。

とくに、2012年の指導要領改訂で高校数学から消えてしまった

数学C 行列

が解説されている点がおすすめできます。

文系社会人がデータ分析やAIの技術を学ぼうとしたとき、行列についての予備知識が皆無なので、テキストの最初から意味がわからない、ということが多々ありますが、

この本で(旧課程の)高校レベルの知識を身につけておけば、データ分析のテキストの理解もスムーズに進むでしょう。

もう一度高校数学』はテキストの構成が、高校の教科書のように無味乾燥ではないのでとっつきやすいです。



会計とファイナンスをつなぐもの|クリーン・サープラス関係とアクルーアル

こんにちは、毛糸です。

最近、会計とファイナンス(金融経済学)との調和について考えています。

会計では当然ながら、資産や利益といった会計情報を扱います。

一方、ファイナンスでは株式市場についての分析を行うことから、特に実証分析において、会計情報が極めて重要になってきます。

しかしながら、投資理論や金融意思決定の理論的研究においては、会計情報を明示的に扱うものは多くありません。

ファイナンスでは基本的には、キャッシュフローや資産が分析の中心になります。

そんな会計とファイナンスですが、両者をつなぐ重要な関係式があります。

それがクリーン・サープラス関係、そしてアクルーアルです。

本記事では会計とファイナンスをつなぐこれらの概念についてまとめます。

クリーン・サープラス関係

会計とファイナンスをつなぐ重要な関係式の1つが、クリーン・サープラス関係です。

クリーン・サープラス関係とは、期末の資本は、期首の資本に利益を加え、配当を控除した額として求まる、という関係式のことです。

時点tにおける資本を\( B_t\)、利益を\( e_t\)、配当を\( d_t\)とすると、クリーン・サープラス関係は以下のような関係式として表されます。

\begin{equation} \begin{split}
B_t=B_{t-1}+e_t-d_t
\end{split} \end{equation}

クリーン・サープラス関係は、資本や利益という会計数値と、配当というキャッシュフローをつなぐ関係式であり、会計とファイナンスの重要な接点です。

詳細は下記の記事を参考にしてください。
会計数値の時系列構造を決める関係式|クリーン・サープラス関係、金融資産関係、営業資産関係

株価の評価モデルである配当割引モデルに、クリーン・サープラス関係を適用すると、株価と会計数値(資本と残余利益)の関係式が得られます。
【参考記事】
上述のクリーン・サープラス関係は2時点間の資本の関係を表した差分方程式ですが、これを微分方程式として表すこともできます。
【参考記事】

アクルーアル

会計とファイナンスをつなぐもう一つの重要な概念が、アクルーアルです。

現代の会計では、収益と費用、そしてその差額である利益は、キャッシュフローとは一致しません。

たとえば、今月の家賃を来月10日に支払う、というような契約場合には、月末においては支出が行われていないにもかかわらず、費用を認識します。

こうした費用認識のルールは、発生主義(accrual basis)とよばれます。

収益も同様、認識した額とキャッシュフローの範囲がズレることがあります。

したがって、収益から費用を控除して計算される利益は、キャッシュフローを伴う部分と、キャッシュフローを伴わない部分に分解できます。

この、キャッシュフローを伴わない利益を、アクルーアルと呼びます。

利益はキャッシュフローとアクルーアルの和であり、利益からアクルーアルを控除したものがキャッシュフローです。

利益=キャッシュフロー+アクルーアル

ファイナンスで扱われるのはキャッシュフローですから、これにアクルーアルの調整を行うことで、会計上の概念である利益と結び付けられることになります。

確率制御のテキスト|停止時刻までの最適化問題についてのメモ

こんにちは、毛糸です。

最近、確率制御の勉強をしています。

確率制御とは、確率的に変動する状態に依存して値が決まる目的関数を最小化するように、目的関数や状態に働きかけるような制御変数を決める問題のことです。

たとえば製造業において、製品の価格(状態変数)が自社の供給量(制御変数)によって決まる場合に、コストを最小化するにはどのように供給量をコントロールすべきか、というような問題を扱うことが出来ます。

私はこの確率制御の理論を、会計学に応用できないか試行中です。

確率制御は確率論の応用的トピックですが、日本語の本もいくつか出ています。

確率制御の基礎と応用 (ファイナンス・ライブラリー)』は経済学やファイナンスへの応用を見据えながら、確率制御の基本的事項と応用的内容を解説した本です。

確率微分方程式とその応用』は確率論の基礎知識をコンパクトに解説しつつ、確率制御や工学・ファイナンスへの応用にも章を割いて説明している良書です。

確率論ハンドブック』は確率解析の祖、伊藤清氏が生前構想したという現代確率論の総合解説書であり、確率論の基礎と応用について、その内容と参考書が多数載っています。

私も確率制御の勉強をするに当たり、『確率論ハンドブック』の該当の章を読み込みました。

確率論ハンドブック』の確率制御の章は有限区間の場合しか扱っていませんが、ファイナンスや経済学の文脈においては、期間が無限のものや、停止時刻までの区間を考える必要があります。

そういった応用的な確率制御の理論については、『確率論ハンドブック』のなかのリファレンスで、以下の書籍を参照せよと書いてありました。

Controlled Markov Processes and Viscosity Solutions』はまず、確率的でない決定論的な最適制御理論からはじめ、粘性解(Viscosity solution)と呼ばれる広い意味での「解」について解説したあと、確率制御の解説に移ります。

確率制御についての専門書だけあって、『確率論ハンドブック』でさらっと述べられた内容はすべて厳密な形で説明してありますし、無限期間の問題や停止時刻までの最適化問題についても扱っています。

確率制御の深い理解を得たいときに手に取る本としては、とても良い選択だったと思います。

30歳になって思い知る、高校数学の大切さ

こんにちは、毛糸です。

数学は科学を語る「言葉」として広く受け入れられており、物理学やAIなどのテクノロジーも数学によって記述され、その確かさが証明されます。

社会科学も昨今、数学による分析が多く取り入れられ、経済学や会計学においても数学が用いられています。

最近読んでいる会計学のテキスト『Equity Valuation』にも、数学が用いられており、論理性と検証可能性を要する議論には、数学はなくてはならないものとなっています。

【参考記事】
会計を数学的・経済学的に表現する方法を考える

 
 

AIなどのテクノロジーを理解するために数学が必要なこともあってか、社会人になってから数学を学び直す人は増えているようです。

私が参加している勉強会でも、数学を扱うセミナーは大変好評です。

【参考記事】
【数学ガール】社会人の数学再入門に

 
数学は物事を抽象化し、その構造を浮かび上がらせ、論理の力で結論を導きます。
 
こういった考え方は、数式の展開や計算にとどまらず、日常生活で多くの気づきを与えてくれます。
 
【参考記事】
 
 
私は今年30歳になりましたが、未だに研究意欲を持ち続けており、ビジネスのなかで問題意識を見つけては、これを数学的に解決しようと日夜励んでいます。
 
ときには高校数学で学んだことを復習する必要にかられたりもして、あの頃の勉強はたしかに役に立っているなぁと感慨深くなることもあります。
 
是非、日常に数学のある生活を送る人が増えてほしいと思います。
 
【参考記事】
 
 

連続時間モデルにおけるクリーン・サープラス関係(Clean surplus relation, CSR)

こんにちは、毛糸です。

先日、以下の記事で、会計数値(純資産や営業資産)の変動を規定する関係式について述べました。

【参考記事】
会計数値の時系列構造を決める関係式|クリーン・サープラス関係、金融資産関係、営業資産関係

上記記事に示したクリーン・サープラス関係(Clean Surplus Relation, CSR)とは、企業の純資産の変動を示す以下の関係式のことです。
\begin{equation} \begin{split}
bv_t=bv_{t-1}+ni_t-d_t
\end{split} \end{equation}

ここで\( bv_t\)は時点\( t\)における純資産の金額、\( ni_t\)は純利益、\( d_t\)は配当を示しています。クリーン・サープラス関係は、純資産\( bv_t\)を離散的な時間単位で観測した、差分方程式を表しているといえます。

ということは、これを連続時間で考える、つまり純資産の微分方程式を考えるのは、極めて自然な流れではないでしょうか。

素朴に考えると、1期間で成り立つクリーン・サープラス関係を、時間区間\( \Delta t\)でも成り立つと考え

\begin{equation} \begin{split}
bv(t+\Delta t)-bv(t)=ni(t)\Delta t-d(t)\Delta t
\end{split} \end{equation}

と表し、時間区間\( \Delta t\)を\( 0\)に近づけた極限を考えると

\begin{equation} \begin{split}
dbv(t)=ni(t)dt-d(t)dt
\end{split} \end{equation}

のように表せてもよさそうなものです。

これは純資産\(bv \)の微分方程式になっています。

当然ながらこれを積分すると

\begin{equation} \begin{split}
bv(t)=bv(0)+\int_0^t ni(s)ds-\int_0^t d(s)ds
\end{split} \end{equation}

となり、
「ある時点の純資産は、当初純資産に、利益の累積額を足して、配当として流出した分を控除した額として決まる」
という当たり前の結果が成り立ちます。

会計では通常、会計数値は連続的には観測されず、四半期ごととか1年ごとといった離散時間でのみ観測されます。

しかしながら、理論上は瞬間瞬間に決算をし会計数値を確定させるような手続きを踏めば、もしくはその時点で決算を行えば観測されたであろう「仮想の」会計数値を考えれば、連続時間でクリーン・サープラス関係が成り立つと考えても問題はなさそうです。

むしろクリーン・サープラス関係を微分方程式として表すことができれば、解析学のツールを活用することが出来、分析の幅が広がることも期待されます。

会計学の論文では実際に、この連続時間版クリーン・サープラス関係を扱っているものがいくつかあります。

時間をとってこれらの論文を読み込んでみたいと思います。

RESIDUAL INCOME, REVERSIBILITY AND THE VALUATION OF EQUITY(PDF)
Mark Tippett and Fatih Yilmaz
LINEAR INFORMATION DYNAMICS, AGGREGATION, DIVIDENDS AND “DIRTY SURPLUS” ACCOUNTING(PDF)
David Ashton, Terry Cooke, Mark Tippett and Pengguo Wang
A valuation model for firms with stochastic earnings(PDF
Steven Li

YouTubeで量子力学が勉強できる時代

こんにちは、毛糸です。

数学をライフワークとしている私ですが、この世界のルール・理(ことわり)を数理的に解き明かす物理学にも当然興味を持っています。

物理学には物理学特有の数式表現が数多く存在しています。

ブラケット記法とか、アインシュタインの縮約記法とか、物理を論じる上で都合のいい数式の記述方法には色々あります。

私は物理学をきちんと勉強したことがなかったので、それらに出くわすときはしばらく時間をとって調べる必要があります。

今日も調べ物をしていましたら、偶然こんな動画を見つけました。

予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」というチャンネルでは、大学レベルの数学と物理学を、「予備校のノリで学ぶ」ことができます。

講師のたくみ先生の講義は大変わかりやすく、教育系YouTuberとして有名なようです。

これまでは、なにか勉強をしたいと思ったら、その分野の教科書を読み、学校に通い、もしくは近くの詳しい人に聞いたり、ネットの文字情報を読み込む必要がありました。

しかし、インターネット環境が整う中で、このような動画による教材が多く提供されつつあり、学びの幅は更に広がっています。

また、SNSの発展により、同じ興味を持つ人と、物理的な距離を問わずつながることができるようになりましたし、オンラインの人間関係を発展させ気軽にリアルな勉強会を開くこともできるようになっています。

そう、現代は学びを楽しむ人にとっては、とても幸福な時代なのです。

私も自分の興味を共有したくて、勉強会を開いたりしていますが、普段の仕事だけでは得られないつながりを持つことができ、とても楽しいです。

【参考記事】
勉強会「意識高い……」「レベル高そう……」いやいや、誤解してませんか?

 

学ぶことを苦痛と思わず、知ることを純粋に楽しめるようになったら、現代社会の充実感を噛みしめることができるでしょう。

今回紹介した動画は量子力学(量子論)の解説ですが、量子論を考えるには「波」に関する理解が必須です。

波(波動)は高校物理でも扱いますので、高校レベルの参考書を読んでみることから始めるのが良いでしょう。

私も以下の本が高評価だったので、この夏の宿題として、読んでみようと思っています。



会計数値の時系列構造を決める関係式|クリーン・サープラス関係、金融資産関係、営業資産関係

こんにちは、毛糸です。

こんな本を読んでいます。

この本は、企業が発行する株式を評価する手法を、会計学と経済学の立場から論じる研究書です。

この中に、会計学における重要な方程式が取り上げられていたので、メモしておきます。

クリーン・サープラス関係(Clean Surplus Relation, CSR)

クリーン・サープラス関係(Clean Surplus Relation, CSR)とは、企業の純資産の変動を示す以下の関係式のことです。

\begin{equation} \begin{split}
bv_t=bv_{t-1}+ni_t-d_t
\end{split} \end{equation}

ここで\( bv_t\)は時点\( t\)における純資産の金額、\( ni_t\)は純利益、\( d_t\)は配当を示しています。

つまり、ある時点の純資産額は、一期前の純資産額に、その期の利益を加え、株主に支払った額を差し引いた金額として定まる、ということです。

純資産額\( bv_t\)は、金融(純)資産\( fa_t\)と営業(純)資産\( oa_t\)に分けられると仮定します。

\begin{equation} \begin{split}
bv_t=fa_t+oa_t
\end{split} \end{equation}

純利益\( ni_t\)は、金融(純)利益\( fi_t\)と営業(純)利益\( oi_t\)に分けられると仮定します。

\begin{equation} \begin{split}
ni_t=fi_t+oi_t
\end{split} \end{equation}

金融資産関係(Financial Asset Relation, FAR)

金融資産関係(Financial Asset Relation, FAR)とは、金融(純)資産の変動を示す以下の関係式のことです。

\begin{equation} \begin{split}
fa_t=fa_{t-1}+fi_t+fcf_t-d_t
\end{split} \end{equation}

ここで\( fcf_t\)は時点\( t\)におけるフリーキャッシュフローです。

金融資産関係が成り立つためには、株主への配当は金融(純)資産を通じて行われるという前提を置く必要があります。

この前提のもとで、ある時点の金融(純)資産額は、一期前の金融(純)資産額に、その期の金融(純)利益とフリーキャッシュフローを加え、株主に支払った額を差し引いた金額として定まります。

営業資産関係(Operating Asset Relation, OAR)

営業資産関係(Operating Asset Relation, OAR)とは、営業(純)資産の変動を示す以下の関係式のことです。

\begin{equation} \begin{split}
oa_t=oa_{t-1}+oi_t-fcf_t
\end{split} \end{equation}

営業資産関係(OAR)は、クリーン・サープラス関係(CSR)と金融資産関係(FAR)が成り立つときには当然成り立ちます。

ある時点の営業(純)資産額は、一期前の営業(純)資産額に、その期の営業(純)利益を加え、フリーキャッシュフローを差し引いた金額として定まります。

会計ベースの資産価格理論

CAR、FAR、OARは、ファイナンスの基本原則「無裁定の原則」と組み合わせると、会計数値をベースとした資産価格理論につながっていきます。
ファイナンスでは、ある資産が生み出す配当や利息の割引現在価値が、その資産の価格に等しいという関係式を考察しますが、これは基本的にはキャッシュフローの世界の考え方です。
しかし、上記のような会計関係(Accounting Relation(s))を組み合わせることで、キャッシュフローの世界から、会計数値の世界へと、資産価格の理論を発展させることができます。
もし興味があれば、財務諸表分析などを扱うテキストに説明があるので、読んでみると良いでしょう。

会計を数学的・経済学的に表現する方法を考える

こんにちは、毛糸です。

最近、会計学を数学の言葉で表現できないか、という問題に取り組んでいます。

本記事では数学(確率論)と会計の対比をしつつ、両者の大きな差異について述べたあと、経済学の枠組みで決まる「最適な会計」についてまとめます。

写像としての会計

会計学でもっとも有名な教科書の一つ『財務会計講義』には、

会計はこのような経済活動を所定のルールに従って測定し、その結果を報告書にとりまとめる。したがってその報告書は、経済活動という実像を計数的に描写した写像である。

と述べられています。

「写像」とは数学の言葉で、関数とほぼ同義です。

つまり数学の言葉を用いて会計を形容するということは、すでに行われていたということです。

しかしながら、「会計は写像である」という立場を発展させて、会計学を数学的に厳密に扱おうとする研究は、あまりメジャーではないようです。

「分析的会計研究」と呼ばれる会計学の一分野がありますが、これは会計とそれを取り巻く経済主体の行動について、経済学などをベースとした数理的アプローチにもとづいて分析するものです。

会計と確率論

会計を写像として捉えるとき、会計は確率論と非常に似た設定であることがわかります。

【参考記事】
確率論のアナロジーとしての会計学と、それらの重要な差異

会計規則は確率論における確率変数に対比されますが、確率論と会計学の重要な差異は、その規則・確率変数が「どういうものであるべきか」を重視するか否かにあると、私は考えます。
通常、確率論において確率変数をいかに定めるかという問題は、重視されません。
コイン投げゲームをするときに、表裏に何点を設定するかという点は、あまり大きな意味を持たないということです。
しかし会計規則は、それをどう決めるべきかが主たる関心事です。
100万円の債権を持っているときに、会計情報として100万円とは異なるテキトーな数字を認識し開示すれば、会計情報の利用者は困惑してしまうでしょう。
したがって、確率論の枠組みをそのまま会計に利用することはできません。

経済学ベースの会計

会計というルールをどう決めるか、という問題は、経済学にその答えを求められるのではないかと、私は考えています。
以下で、経済学の枠組みで会計規則がどのように決定されるかをかんたんに説明します。

まず、会計とは、経営活動\( \Omega\)から会計情報\( B\)への写像\( A:\Omega\to B\)である、と定義します。

経営活動の\( \Omega\)は、確率論における標本空間に対応するもので、抽象的な集合です。

したがって(可測性など種々の条件を満たすとして)写像\( A\)は\( B-\)値確率変数とみなせます。

また、会計情報\( b\in B\)は\( n\)次元バランスベクトル\( (a_1(\omega),\cdots,a_n(\omega))^T,\sum_k a_k=0\)として表されるものを指すとします。

バランスベクトルとは複式簿記における試算表や仕訳を抽象化した概念です。

詳細は以下の書籍を参照してください。

バランスベクトルの各要素\( a_k(\omega)\)は経営活動\( \Omega\)から会計数値\( \mathbb{R}\)への関数ですが、この関数形はのちに定義する経済主体によって決定されます。

経済主体は会計情報から効用を得ると仮定します。

\begin{equation}\begin{split}
u:({a_k})_{k=1}^n \mapsto \bar{u}\in\mathbb{R}
\end{split}\end{equation}

会計情報(たとえば売掛金が100あるという情報)それ自体は消費対象ではありませんが、会計情報を参照する契約によりこの経済主体の消費水準が決まると考えれば、彼の効用関数は会計情報の集合上で定義されると考えられます。

経済主体は効用を最大化させるように、関数としての\(  ({a_k})_{k=1}^n \)を決定します。

すなわち会計規則として採用可能なものの集合(関数の集合)\( {A}_k\)を所与としたとき

\begin{equation}\begin{split}
\max_{{a_k}\in A_k,k=1,\cdots,n}u({a_1},\cdots,{a_n})
\end{split}\end{equation}

という最大化問題を考えます。

この解として得られる最適な会計情報\(  ({a^*_k})_k \)が、この経済主体が依拠したいと考える会計基準です。

会計基準が「民主的な方法」で決まるとき、市場に存在する多数の経済主体が思い描く最適な会計基準を「統合」したものが、会計基準として施行されます。

【参考記事】
「俺の会計基準」モデル|社会的選択論は会計を考えるツールになるか

以上が、経済学の枠組みで会計規則がどう決まるかという問題を考える際の基本的枠組みです。

この考え方に基づいて、なにか具体的な会計規則や現実の現象が説明できないか、引き続き研究していこうと思います。

GeoGebraで数学のグラフをきれいに描く

こんにちは、毛糸です。

「数学 グラフ」でググっていたら、良さげなツールを見つけたのでメモしておきます。

GeoGebraで関数のグラフをかんたん描画

GeoGebraは関数を指定してグラフを描画したり、平面図形などを簡単に描くことのできる、教育的なオンラインツールです。
関数が既知のものであれば、それを入力するだけで、すぐにグラフが描画されます。
授業用教材にはさまざまな分野・レベルの例題が満載で、数学を勉強し直そうと思っている人がテキスト代わりに使うのも良いでしょう。

棒グラフもかけます

私は調和級数\( \sum_{k=1}^n\frac{ 1}{ k}\)について調べるなかで、棒グラフを描きたかったのですが、これも


BarChart({1.5,2.5,3.5,4.5,5.5},{1,1/2,1/3,1/4,1/5})

で描くことができます。前半のカッコで各バーの始点を、後半のカッコでバーの高さを規定します。
調和級数\( \sum_{k=1}^n\frac{ 1}{ k}\)は上下から以下のように評価できます。
\begin{equation} \begin{split}
\int_1^{n+1}\frac{ dx}{ x}<\sum_{k=1}^n\frac{ 1}{ k}<1+\int_2^{n+1}\frac{ dx}{ x-1}
\end{split} \end{equation}
これをグラフにしてみると、この関係式は一目瞭然です。