私たちが目にする財務諸表は,企業の財政状態や経営成績を必ず貨幣価値で表現します。これは企業会計の基本ルールのひとつであり,会計はお金と密接に関わっています。
では,お金のない世界では,会計は存在しないのでしょうか。
財務会計の枠組みと貨幣的測定の公準
財務会計は企業の経済活動を貨幣単位で測定し,報告書として企業外部の利害関係者に伝達する仕組みです。
この定義のもとでは,お金のない世界で財務会計は存在しえません。
財務会計の定義の中で,貨幣(つまりお金)を尺度として企業の活動を表すことと明言されているため,お金のない世界では財務会計の定義を満たす会計は存在しないということです。
財務会計情報が貨幣単位で表されるという要請は,貨幣的測定の公準とよばれ,財務会計における基本的条件のひとつとされています。
管理会計と非貨幣的尺度
会計学の主要な分野として財務会計と並び立つのが,管理会計です。
財務会計と管理会計の相違点・共通点
管理会計では必ずしも貨幣額における測定・報告は求められていません。
管理会計は経営意思決定において役立つ情報を把握し,適切な意思決定者に伝達するすることで,経営目標を達成しようとするプロセスです。
意思決定に必要な情報は貨幣的に測定されるものである必要はなく,例えば生産性などパーセンテージで図られる指標であったり,製品の原料となる材料の重量といった物的尺度も広く用いられます。
したがって,お金のない世界でも管理会計は存在するといってよいでしょう。
管理会計の定義
狩猟時代や自給自足の生活に会計はあったのではないか
Twitterで「会計が不要な世界」について問いかけたとき,狩猟時代や自給自足の時代には,会計はなかったのではという意見をいただきました。
たしかに,貨幣が発明される以前の物々交換の時代には貨幣測定は行われませんし,農業が発達し作物の備蓄(つまり資産)が行われる以前の狩猟・採取の時代には,会計報告の対象となる状況は多くなかったのかもしれません。
しかし「一族の若者の誰々は狩りが得意だから栄養をつけさせよう」とか「誰々が良い矢尻をたくさん持っているらしい」というような情報があれば,そうしたスキルをみんなに役立てるための管理会計的視点が生まれても不思議はありません。
また「今日の釣り担当は誰々,目標は5匹だ」というようなコミュニティのルールが生まれれば,漁獲高を測定単位とした財務会計が求められていたかもしれません。
こう考えると,原始的な営みの中にも会計の考え方は(今の姿と異なっているとはいえ)存在していたように思えます。
参考文献
この記事で触れた財務会計の定義や会計の考え方は,こちらのテキストを参考にしました。会計に関する基本的事項から,最新の会計基準の考え方までを網羅した,会計学テキストの決定版とも言える本です。
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