NPV法は将来のキャッシュ・フローを資本コストで運用できると仮定している,という主張について

戦略管理会計』よれば,NPVの計算には,将来のキャッシュ・フローを資本コスト率で運用するという仮定が内在していると説明されています(会計士受験の予備校のテキストにも同じ説明があったと記憶しています)。

しかし,これはNPV法で「仮定」されていることなのか,ちょっと引っかかったので,ここにメモしておきます。

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資本と負債の中間項目は、会計にどんな影響を及ぼすのか

企業の資金調達は資本と負債に大別されます。これらは自己資本・他人資本ともよばれ、その性質は大きく異なっています。

しかし、近年の金融技術の発展と制度の整備により、資本と負債の中間的な性質の資金調達手段が普及してきています。たとえば、新株予約権付社債、優先株式はその例です。

曖昧になりつつある負債と資本の境界線

これらは中間的項目は、重要な財務数値にも影響を与えます。例えば企業の財務健全性を表す指標である負債比率が挙げられます。

負債比率は負債による資本調達によって上昇(悪化)するため、資本と負債の中間的な証券を発行した際に、それが負債として計上されることで、企業の財務健全性を損なうと判断される場合があります。

また、資本と負債の違いは、利益計算にも影響します。

通常、資本主(株主)との取引からは損益が認識されません。一方、債権者との取引からは損益が認識されます。

この基本的な考え方に基けば、資本と負債の中間的な資金調達を行なった場合に、それが資本に計上されるか負債に計上されるかで、資金提供者との取引にかかる取引が損益に影響するか否かという重要な差異が生じます。

以上のように、資本と負債の中間的性格の資金調達は、会計情報の利用者や利益計算に重要な影響を与えるのです。

【参考文献】

 

曖昧になりつつある負債と資本の境界線

負債と資本は貸借対照表の貸方の構成要素として広く理解されています。簿記や会計の入門的なテキストでは,負債(他人資本)と資本(自己資本)は明確に区別され,それらが混同されることはあまりないように思います。

しかし,昨今の金融技術の発展により,負債と資本という2つの調達源泉の境界線は,徐々に曖昧になっています。

この記事では負債と資本の間に位置するような項目を例に挙げ,負債と資本の境界線が曖昧になりつつあることを説明します。

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学問は興味だけでは進まない?研究のコスパの話

望月教授の宇宙際タイヒミュラー理論(IUT)は、数学のパラダイムを変えるほど革新的な研究だそうです。

しかし、論文の内容が正しいのかどうか、数学界では意見が割れているようで、議論はなかなか終着を見ません。

日経の記事では、ある海外の数学者のこんな発言を紹介しています。

他にもやるべきテーマがある。以前は理解できないかと考えてきたが、もはやこの議論に費やす時間はない

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会計学と数学における「コンバージェンス」

会計学にも数学にも「コンバージェンス」という言葉があります。

この記事では2つの「コンバージェンス」が一体どういう概念なのか説明したあと,会計学におけるコンバージェンスが数学におけるコンバージェンスとみなせるのではないかというアイデアについて述べます。

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仕事を進めるために帰るという考え方

仕事が溜まっているときには、少しでも消化しようと長く働いてしまいがちです

しかし、それは本当に合理的なのでしょうか。

この記事では、仕事を進めるために帰って休むのが合理的である、という考え方について説明します。

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割引計算を「換算」と考えてみる

この記事では,貨幣の時間価値とはなにか簡単に説明します。そして,将来キャッシュ・フローを現在価値に割引くプロセスが,通貨換算と同じような理屈で説明できることを述べます。

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線型写像【簿記数学の基礎知識】

線型写像の定義

\( V\)を\(m \)次元ベクトル空間,\( W\)を\(n \)次元ベクトル空間とします。

写像\( f:V\to W\)が線型写像とは,\( m\)次元ベクトル\( \boldsymbol{ a},\boldsymbol{ a_1},\boldsymbol{ a_2}\in V\)とスカラー\( c\)に対して以下が成り立つことをいいます。

  1. 加法性:\( f(\boldsymbol{ a_1}+\boldsymbol{ a_2})=f(\boldsymbol{ a_1})+f(\boldsymbol{ a_2})\)
  2. 斉一次性:\( f(c\boldsymbol{ a})=cf(\boldsymbol{ a})\)

上記1と2を合わせて線型性といいます。

\( f\)を変換とよぶことにすると,加法性とは「和の変換は,変換の和」と言い表せます。斉一次性は「スカラー倍の変換は,変換のスカラー倍」と言い表せます,

\( f\)が線型写像であるとき,\( m\)次元ベクトル\( \boldsymbol{ a_1},\boldsymbol{ a_2},\cdots\)とスカラー\( c_1,c_2,\cdots\)に対して以下が成り立ちます。

\begin{equation} \begin{split}
f\left( \sum_i c_i\boldsymbol{ a_i}\right)=\sum_i f\left(  c_i\boldsymbol{ a_i}\right)
\end{split} \end{equation}

線型写像はベクトル空間の準同型

線型写像はベクトル空間の準同型とも言えます。

ベクトル空間とは体上の加群であり,加群は和とスカラー倍を扱うことができます。

準同型とは「構造を保つ」ような写像のことで,「和の変換は,変換の和(加法性)」と「スカラー倍の変換は,変換のスカラー倍(斉一次性)」という性質が「構造を保つ」ということです。

線型写像の例

線型写像は数学のさまざまなシーンに表れます。以下では特に有名なものを挙げます。いずれも線型写像の定義域と値域がベクトル空間であることをまず示す必要がありますが,そこは端折ります。

定積分

\(  \mathbb{R}\)上の適当な区間\( [a,b]\)上で定義された実数値可積分関数の空間\( F=\left\{f|f:[a,b]\to  \mathbb{R} \right\}\)を考えます。

この区間での定積分は線型写像です。以下のように線型性を確かめられます。

\( f,g\in F\)に対して\( \int_a^b(f(x)+g(x))dx=\int_a^b f(x) dx +\int_a^b g(x)dx\)なので加法性が成り立ちます。

また\( f\in F\)と\( c\in  \mathbb{R}\)に対して\( \int_a^b cf(x)dx=c\int_a^b f(x) dx\)なので斉一次が成り立ちます。

 

微分

微分は,微分可能な関数の空間から関数空間全体への写像であり,線型写像です。以下のように線型性を確かめられます。

微分可能な関数\( f,g\)に対して\( (f+g)’=f’+g’\)なので加法性が成り立ちます。

また微分可能な関数\( f\)とスカラー\( c\)に対して\((cf)’=c f’ \)なので斉一次が成り立ちます。

 

期待値

確率変数の期待値も線型写像です。以下のように線型性を確かめられます。

確率変数\( X,Y\)に対して\( \mathbb{E}\left[ X+Y\right]=\mathbb{E}\left[ X\right]+\mathbb{E}\left[Y \right]\)なので加法性が成り立ちます。

また確率変数\( X\)とスカラー\( c\)に対して\(\mathbb{E}\left[c X\right]=c\mathbb{E}\left[ X\right] \)なので斉一次が成り立ちます。

複式簿記への応用

複式簿記は,環\( R\)上の自由加群\( R^n\)から環\( R\)上の加群\( M\)への加群準同型\( \sigma:R^n \to M\)の核\( \mathrm{ker} \sigma\)の構造をもちます。

複式簿記会計の公理:ひとつの提案として

上述の線型写像は加群準同型の特別な場合なので,線型写像\( f\)の核\( \mathrm{ker} f\)も複式簿記が備えるべき性質をもっているといえます。

通常の複式簿記で扱うのは整数ベクトルの空間ばかりです。しかし定積分や期待値が線型写像であると考えると,定積分すると0になる関数の空間(定積分という線型写像の核)や期待値が0になる確率変数の空間(期待値という線型写像の核)もまた,複式簿記と類似の構造を持っていることになります。

こう考えると,複式簿記「的な」性質は,実はとても基本的な性質なのだと言えそうです。

参考文献

本記事は以下の書籍を参考にしました。線型代数の由緒正しいテキストです。ベクトルと行列の基本的な演算からはじめて,ベクトル空間論やテンソルなど抽象的な代数の世界へと導いてくれます。


Wikipediaの線型写像のページも参考にしました。

このブログで不定期連載中の【君の知らない複式簿記】では、簿記の代数構造に関する研究結果を紹介しています。

【君の知らない複式簿記】シリーズはこちらからどうぞ

 

なぜ決算整理仕訳が必要なのか

Q. どうして決算整理が必要なの?

A. 期中に会計処理を行わなかった取引を,期末の経済状態に合わせて仕訳にする必要があるから。

期中の会計処理は主に,知覚できる事象を対象としています。たとえば商品を販売したり,備品を購入したりした場合には,請求書や領収書などの証憑が発行されますし,銀行振込を行ったりします。これらは物品の移動や人間の行動といった物理的な変化を伴い,知覚しやすいものです。

しかし,会計の対象となる取引には,知覚しづらい対象もあります。たとえば以下のような未払利息の例があります。

借入を行うと,決められた利息を支払う必要が生じます。利息の支払いは決められた期日に行いますので,その期日が来るまでは利息にかんする物理的な変化は生じません。

しかし,資金を借りているという状態(資金を貸してくれるというサービスを得ている状態)は,支払期限が到来していないときにも続いており,会計上はその期間にかかる支払利息は「未払利息」として会計処理する必要があります。

このように,物理的変化を伴わず知覚しづらい現象や状態であっても,期末の経済的な実態に合わせて会計処理を要するケースは多々あります。

こうした取引を期末という一定のタイミングで会計処理するのが,決算整理なのです。

参考文献

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