会計を企業の状態から会計情報への写像と見たとき、異なる2つの状態が「似ている」ならば、アウトプットとしての会計情報も「似ている」ことが期待されます。
本記事では企業の状態が「似ている」ことを数学的に同定式化するかについて考えます。
会計を企業の状態から会計情報への写像と見たとき、異なる2つの状態が「似ている」ならば、アウトプットとしての会計情報も「似ている」ことが期待されます。
本記事では企業の状態が「似ている」ことを数学的に同定式化するかについて考えます。
会計には、異なるルールのさまざまな会計があります。例えば、財務会計や税務会計、日本基準と国際基準、連結と単体などは、同じ取引に対して異なる会計を適用することで生じる差異です。
本記事ではこの会計ルールの違いを、圏論における「自然変換」と関連付けてみたいと思います。
この記事では自然変換(natural transformation)の定義を紹介したあと、会計という関手の自然変換について触れます。
本記事の内容は以下の書籍を参考にしています。
『新版 現代会計学』では、会計を以下のように定義しています。
会計は,これらの経済主体が営む経済活動(資金の調達建物の購入など)およびこれに関連して発生する経済事象(建物の焼失,機械の損耗,商品の破損・値下りなど)について,主として貨幣額で測定・記録・報告する行為である
会計の定義のなかに「経済主体」という言葉が登場することに注目しましょう。
同書には「経済活動を営む主体を経済主体といい」とあり、この経済活動こそが会計報告の対象となるものですから、経済主体は会計における重要な概念と言えます。
マテシッチによる会計の基本的仮定やRenesの公理にも、経済主体の存在が会計の前提になっています。
経済主体は会計の「適用範囲」を左右するファクターでもあります。
通常、企業の取引には相手方、つまり異なる経済主体が存在し、その相手方との取引を一定の会計規則に当てはめて仕訳を行い、報告します。
一方、異なる経済主体間の取引であっても、それが連結グループ内の取引であれば、連結会計上の会計処理に影響しません。
このように、経済主体は会計の対象となる範囲を規定する役割を果たしています。これは自然科学における「系(system)」に近い概念です。
経済主体を考えるということは、会計モデルの系を考えるということ、なのかもしれません。
企業におけるあらゆる状態変化が会計情報に反映されるわけではありません。
たとえば、企業の役員の交代は、企業の状態を変化させる重要な理由と考えられますが、役員の交代に関する会計処理はありません。
このような「会計上の取引ではない」状態変化は、数学的にどのように表したらよいのでしょうか。
ひとつの考え方は、ある状態遷移\( f\)に関して、その会計的な表現\(\boldsymbol{v }=C_A(f)\)が恒等写像になるとき、\( f\)を「会計上の取引ではない」と定義するというものです。
【参考記事】【君の知らない複式簿記8】会計は写像であり、関手である。
\(\boldsymbol{v }=C_A(f)\)が恒等写像になるということは、\( f\)という状態遷移がおきても、会計状態には変化がない(つまり仕訳を行わない)ということです。
このような\( f\)は、少なくとも\( C_A\)という会計規則に基づく限りにおいては、会計情報にはなんら影響を及ぼさないという意味で「会計上の取引ではない」と考えられます。
このような考え方は、以下のテキスト第6章において、会計システムをオートマトンとして描く際に述べられています。
複式簿記は財務諸表を作成するための基本原理であり、会計とは切っても切れない関係にあります。
しかし、会計は財務諸表による企業ディスクロージャーのみではありません。財務会計とともに会計学の中核をなす管理会計においては、必ずしも複式簿記による会計情報は用いられず、それどころか貨幣単位での測定や記録すら行われない場合があります。
【参考記事】財務会計と管理会計の相違点・共通点
このように、会計という大きなくくりで考えたときには、複式簿記を伴わない会計もメジャーな存在です。
『新版 現代会計学』では、会計を以下のように定義しています。
会計は,これらの経済主体が営む経済活動(資金の調達建物の購入など)およびこれに関連して発生する経済事象(建物の焼失,機械の損耗,商品の破損・値下りなど)について,主として貨幣額で測定・記録・報告する行為である
この定義にも「複式簿記」という言葉は出てきていません。
財務会計制度において作成が求められる財務諸表は複式簿記に則る必要がありますが、より一般の会計を考えたときには、複式簿記は必須要件ではないと言っていいでしょう。
監査と(公認会計士による財務諸表監査)は、企業がみずから作成した財務諸表が、一般に構成妥当と認められた企業会計の基準に準拠していることを確かめる手続きであり、「保証業務」のひとつです。
具体と抽象、という言葉を使うなら、監査というのは保証業務の具体のひとつであり、保証業務は監査の抽象化です。
監査・保証実務委員会研究報告第31号では、保証業務を次のように定義しています。
「保証業務」とは、適合する規準によって主題を測定又は評価した結果である主題情報に信頼性を付与することを目的として、業務実施者が、十分かつ適切な証拠を入手し、想定利用者(主題に責任を負う者を除く。)に対して、主題情報に関する結論を報告する業務をいう。
保証業務の対象となる主題、つまり「なにを保証するか」については、財務諸表以外のものもあります。
上記研究報告においては財務諸表のほかに、内部統制の有効性、サステナビリティに関する状況、温室効果ガスの排出に関する状況などが挙げられています。
このように、監査を抽象化した保証業務という概念を見出すことで、監査「のような」業務を考案したり、適当な仕組みを作るのに役立てたりできます。
この記事では、複式簿記に関する素朴な疑問を投げかけます。
複式簿記の利用は、現代の企業開示制度においては前提となっており、複式簿記そのもの、もしくは複式簿記に関する社会のあり方に関する疑問は、正面から答えられていない気がします。
しかし、こうした素朴な疑問に答えることは、複式簿記の構造をより深く理解する助けになると考えています。
複式簿記、人類の偉大なる発明の一つであり、600年に渡って使われ続けるビジネスの基本言語です。
【君の知らない複式簿記】シリーズは、そんな複式簿記の普段とは違う側面を探求するコンテンツです。
本記事では、私がなぜ複式簿記の別の表情に気づいたのか、複式簿記の知らない一面を追うとはどういうことなのか、説明します。
圏論の重要概念である「関手」は、圏と圏の構造を保つような対応関係です。
本記事では関手の定義とそのイメージについて述べます。
また、会計において関手がどこに現れるのかについても触れます。
\( \mathscr{ A }, \mathscr{ B }\)を圏とします。
【参考記事】圏(けん、category)【簿記数学の基礎知識】
\( F:\mathscr{ A }\to \mathscr{ B }\)が関手であるとは、
を満たすことをいいます。
圏というのは対象と射がなすシステムです。関手は圏の間の構造を保つような対応関係のようなものです。
『圏論の道案内』では関手のイメージとして、以下のような説明をしています。
日常生活で他人にものごとを説明する際、我々はよく言い換えや喩えといったことを行うが、これを数学的に捉えたものが関手なんだ。
もう少し具体的に述べてみましょう。
圏\( \mathscr{ A }\)に対象\( X\)から\( Y\)への射\( X\overset{f}{\rightarrow} Y\)があるとします。これを「\( X\)と\( Y\)の関係」と解釈してみましょう。
\( F:\mathscr{ A }\to \mathscr{ B }\)が関手であるとき、圏\( \mathscr{ B }\)において\(F( X)\overset{F(f)}{\rightarrow} (Y)\)という関係が成り立ちます。これは圏\( \mathscr{ A }\)における関係を圏\( \mathscr{ B }\)の置き換えていると解釈できます。いわば、圏\( \mathscr{ A }\)における関係を圏\( \mathscr{ B }\)で言い換えている、もしくは喩えているようなものです。
会計は企業のビジネスの実態を会計情報に「写す」プロセスです。つまり、会計は写像です。
実は、企業の経営と会計情報をそれぞれ圏と捉えると、会計は関手になります。詳細は以下をご覧ください。
【参考記事】【君の知らない複式簿記8】会計は写像であり、関手である。
圏論の基本的な内容や関手のイメージについては、こちらの書籍がおすすめです。対談形式で楽しく読めて、圏論の「こころ」が理解できます。
関手を含む圏論の基礎的な内容について、以下のテキストが参考になります。
このブログで不定期連載中の【君の知らない複式簿記】では、簿記の代数構造に関する研究結果を紹介しています。
【君の知らない複式簿記】シリーズはこちらからどうぞ。
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