【君の知らない複式簿記 補遺】複式簿記の座標

このブログでは複式簿記の数学的な表現についていくつか記事を書いています。

【参考記事】【君の知らない複式簿記】目次まとめ

複式簿記における仕訳や試算表は、ベクトルとして表現できます。このとき、勘定科目は「座標系」と解釈することが可能です。

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望月新一教授の宇宙際タイヒミュラー理論とはなにか:ABC予想の解決論文の「雰囲気」を知る

数学上の未解決問題「ABC予想」を証明した論文が2021年3月4日、国際専門誌「PRIMS」特別号でお披露目されました(共同通信記事)。

論文の著者は京都大数理解析研究所の望月新一教授です。この論文では「宇宙際タイヒミュラー理論(IUT; Inter-universal Teichmüller Theory)」という全く新しい数学理論が創造されています。

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【君の知らない複式簿記 補遺】ブロックチェーン的三式簿記の3つの解釈

6世紀に渡り会計の基本言語であり続けている複式簿記。

そんな複式簿記が、最新のテクノロジーであるブロックチェーンによって進化しようとしています。

ブロックチェーン的三式簿記と呼ばれる新たな簿記です。

この記事ではブロックチェーン的三式簿記について2つの解釈が存在することを解説します。

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セミオートマトンとオートマトン【簿記数学の基礎知識】

この記事ではセミオートマトンとオートマトンの定義について解説します。

荒っぽく言えば、セミオートマトンとは入力によって変化する機構、オートマトンとは入力によって変化し、同時に出力も行う機構です。

本記事ではさらに、オートマトンと会計システムの関係についても触れます。

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財管一致の再定義:「財管一致の現状と課題-管理会計からの考察-」(川野2018)を読む

会計と一口に言っても、その目的はさまざまです。

なかでも、企業の活動を外部に報告する目的で行われる財務会計、社内の意思決定に利用する目的で行われる管理会計の2つは特に有名でしょう。

ある企業が財務・管理の2つの目的でデータを揃える「財管一致」いう考え方があります。

本記事では財管一致とはどういう考え方なのか、参考文献を提示しながら解説します。

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順序群、順序環、順序体【簿記数学の基礎知識】

本記事では、順序群・順序環・順序体の定義をまとめています。

これらは群・環・体という代数構造に順序の概念を入れたものであり、これにより演算と整合的な「元の正負」を扱えるようになります。

元の正負は、複式簿記における借方と貸方の概念に繋がります。

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経理職員はAIに仕事を奪われるのか?

こんにちは、毛糸です。私は上場企業の決算を支援する仕事をしています。

決算や経理というと、最近は「AIで仕事を奪われるのではないか」という声がよく聞かれます。

本記事ではその不安について深掘りしていきたいと思います。

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簿記会計の公理を考えると何が嬉しいのか?

このブログでは複式簿記と会計の公理についてたびたび取り上げています。

1960年頃から続く公理に関する研究や、最近提示された新しい公理をもとに、私が考案した公理も紹介しました。

本記事では、そもそもなぜ、簿記や会計の公理を考えるのか、公理を示すことでどんないいことがあるのか、考察します。

復習:公理とは何か

まず初めに、公理とはなにか復習しておきましょう。

公理とは、ある数学概念を定義する際に用いる、要請や主張のことです。

「こういう性質を満たすものを、ほにゃららと定義します」といったときの「こういう性質を満たす」という主張が公理です。

公理は、数学的な議論の出発点となる共通の了解事項ともいえます。公理には「それはなぜか」という問いかけの無限遡及を防ぐ効果もあります。

概念の定義に関する要請ですから、それが正しいかどうか、証明する必要はありません。

【参考記事】公理とはなにか。証明不要の命題がもつ「論理の力」について

簿記・会計の公理とは何か

簿記・会計の公理とは、簿記・会計の定義をする際に用いる要請・主張のことをいいます。

簿記・会計の公理を示すということは、簿記・会計の定義として満たすべき性質に合意をとるということであり、逆に、公理を満たすものならなんでも簿記・会計として認めてしまおうということを意味します。

例えば、我が国が誇る会計研究者の井尻先生は1968年の著書の中で、会計の公理として①支配の公理、②交換の公理、③数量の公理を提示しました(もっとも、これら公理からなにか命題を導くことはしなかったようですが…)

簿記・会計の公理を考える意義

簿記・会計は社会で広く用いられる概念であり、既にその重要性は十分認識されています。

そんな中、簿記・会計の公理を考えることに、一体どんな意義があるのでしょうか。

議論の前提を揃える

簿記・会計の公理を定めることで、簿記・会計の定義が決まります。

公理は議論の出発点です。簿記・会計の公理に同意するならば、簿記・会計に関するすべての議論は、その公理を出発点にできます。

公理を満たしているか確認するだけでよいので、「簿記・会計とはそもそも何なのか」「何であるべきなのか」という哲学的な問いかけに真っ向から挑むことなく、簿記・会計に関する有用な議論を進めることができます。これは重要なメリットです。

もちろん、簿記・会計の公理に同意するか否か、という議論は必要です。公理やそこから演繹される命題が、既にある簿記・会計の性質に反するのであれば、そのような公理には同意できないでしょう。

例えば、貸方借方に対応する概念がないとか、仕訳の足し算が仕訳の形をしていないとか、そういう状況を生むのであれば、そんな公理には同意できません。

しかしひとたび簿記・会計の公理に同意したならば、すべての議論はその公理を前提として進みます。

ちょうど「確率とは何なのか」という哲学的な問いかけに対して、コルモゴロフの公理がその問いかけを回避する道筋を示したように、簿記・会計の公理も「それ以上は追及不要」な議論の出発点を提供します。

 

議論の範囲を明確にする

公理から導かれる性質は、公理を満たすどんなものに対しても成り立つ普遍的なものです。簿記・会計の公理を与え、その公理から何がいえるかを調べることで、簿記・会計に一般に成り立つ性質を特定できます。

簿記・会計の公理から演繹される命題はすべて、簿記・会計の性質です。

考察の対象が行列簿記でも矢印簿記でも、簿記の公理さえ満たしていれば、公理から導かれる命題はすべて成り立ちます。考察の対象が財務会計でも管理会計でも、会計の公理さえ満たしていれば、公理から導かれる命題はすべて成り立ちます。

もちろん、現実にある簿記・会計の諸問題がすべて、公理から演繹される命題として述べられるわけではないはずです。

例えばRenesの公理私の公理では、「取得原価主義と時価主義のどちらが優れているか」という問いに対して、答えを用意できません。なぜなら、それらの公理は簿記・会計の抽象的な構造を規定するものであって、具体的な会計のあり方という現実問題を射程にしたものではないからです。

公理からは演繹できない問題は、簿記・会計の抽象的な構造の問題ではないといえます。これは確率の公理において、確率測度を具体的にどう定義するかという問題に踏み込まないのと似ています。それはあくまで現実の出来事をどうモデル化するかという問題です。

議論の出発点として簿記・会計の公理を示すことで、そこから演繹される命題は簿記・会計の構造から導かれる命題であると断言できます。逆に、簿記・会計の公理に定められていない主張を議論に付け加える必要があるならば、それは(当初合意した)簿記・会計の定義を拡張しているということになります。

導きたい命題のために定義や命題を付加することは自由です。群の定義に交換法則を追加しアーベル群を定義することで、より豊かな数学を展開できるのと同じです。

大切なのは、どこまでを共通の了解事項として合意したのか、それを明確に示すことです。

 

簿記・会計を抽象化する

簿記・会計の公理が与えられたとき、その公理を満たすものは、たとえどんなに「会計っぽくない」ものであっても、簿記・会計であると定義することになります。

公理という「簿記・会計が否かの判断規準」を示すことによって、一見して異なる対象に同じ構造を見出すことができます。簿記・会計を抽象化しているとも言えます。

概念の抽象化は公理の重要な利点の一つです。

ここで位相空間にちなんだ例を示します。3つの元しか持たない集合上で連続写像を定義できるという例に、概念が抽象化されるとはどういうことかを感じ取ってほしいと思います。

例:3つの元からなる集合上の連続写像

私たちは連続写像という言葉について、隙間なく埋まった空間と、その上の切れ目ないグラフをイメージするでしょう。逆に、飛び飛びの値を取る有限集合上では、連続写像が定義できるとは信じられません。

しかし、開集合の公理によって、有限集合に開集合を定めることで、有限集合の上の連続写像を定義することができます。

トランプの絵札(ジャック\(J\)、クイーン\(Q\)、キング\(K\))の集合\(S=\left\{J,Q,K\right\}\)に対して、開集合全体の集合\(\mathbb{O}\)を

\begin{equation} \begin{split}
\mathbb{O}=\left\{ \left\{ ~\right\},\left\{ Q\right\},\left\{J,Q \right\},\left\{ Q,K\right\},\left\{J,Q,K \right\}\right\}
\end{split} \end{equation}
と定めると、\(\mathbb{O}\)は開集合の公理を満たすことがわかります。

そこで写像\(f:S\to S\)を

\begin{equation} \begin{split}
f(J)=K,f(Q)=Q,f(K)=J
\end{split} \end{equation}
と定めると、この写像は連続写像の定義を満たしていることが確かめられます(詳細は参考文献をご覧ください)。

この例を通して伝えたいことは、公理を定めることによって概念が抽象化され、世界が広がっているということです。

有限集合上で連続写像を考えるというのはイメージしづらいことですが、公理を満たすような開集合を考えることができれば、たとえイメージと異なっていても、連続写像を定義できるのです。「開集合」「連続写像」の具体的イメージから離れ、概念を抽象化しています。

このように、概念を抽象化することで、一般性の高い性質を導くことが可能になります。

そして、簿記・会計を抽象化することで、以下のようなメリットが生まれます。

抽象化のメリット①具体的な実務から離れて、課題を解決できる

簿記や会計というのは、実務的・具体的な姿を伴っています。会計システムは各社で様々なものを利用していますし、会計にも多くの基準や指針が存在します。

それらの具体的なオブジェクトを、具体的なレベルで解決するのが、会計実務家の仕事です。

しかし、会計実務における課題の中には一般的なものも存在します。「どの会社もおんなじような課題持ってるんですよね」という話がよく聞かれるように、具体的な現象は異なっていても「根っこは同じ」な問題は数多くあります。

このような場合、具体的な簿記・会計を離れ、抽象的なレベルに議論のフィールドを移すことで、具体的な課題を解決する緒になります。

抽象化のメリット②未知の簿記・会計を見つける

これと同様に、簿記・会計の公理を与えることによって、私たちが今まで簿記・会計とは考えてこなかった対象が、実は簿記・会計と同じ構造を持っていることに気づくかもしれないのです。

それが簿記・会計を抽象化するということであり、未知の簿記・会計を見つけるということです。

まとめ

この記事では簿記・会計の公理を考える意義について述べました。それは、

  1. 議論の前提を揃える
  2. 議論の範囲を明確にする
  3. 抽象化し、未知の簿記・会計を見つける

ということでした。

これらは簿記・会計の構造を論じる際に重要な役割を果たすと私は考えます。

簿記・会計の公理の重要性はまだ十分に認識されていないようなので、継続的に発信していこうと思います。

参考文献

そもそも数学における公理とは何なのか、定義とはどう違うのか、ということについては、以下の記事で詳しく述べています。
公理とはなにか。証明不要の命題がもつ「論理の力」について

簿記・会計の公理に関する研究があまり活発でない理由については、以下の記事で考察しています。
会計の公理的理論が普及していない理由を考える

記事の中で述べた井尻の3公理は、以下の書籍で詳しく論じられています。

トランプの絵札の集合で位相を考える、というお話は、以下の書籍に載っています。公理による概念の抽象化がどんな可能性を秘めているのか、ストーリーで明らかになるでしょう。

公理とはなにか。証明不要の命題がもつ「論理の力」について

本記事では「公理 axiom」とは何かを解説します。

大学に入って学ぶ 抽象的な数学の中で、私たちはいくつかの公理を学びます。しかし公理を考える意義や、定義という言葉との違いについて、詳しく習う機会は少なく、曖昧な理解で済ませがちです。

本記事では公理とは一体なんなのか、理解に役立つ参考文献を挙げながら解説します。

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